微かな潮の香り。

風でページがはためく音に、ふっと意識が浮き上がる。

遠慮がちに手を伸ばしてくるまどろみに、一瞬引き戻されそうになる。

そんな時に、いつも彼女の声が降ってくるのだ。

 

"***!"

 

ーーあの時と同じ様に。

 

 

顔を上げると、開け放たれた窓から彼女が身を乗り出して来た。

 

"また勉強してるの?"

"うん"

 

彼女の癖っ毛が、柔らかな風に揺れている。

前髪に掛かるそれを、少し煩わしそうに掻き上げて、横に流す。

耳元の石が陽の光に煌めいて、眩しいな、と思った。

健康的に焼けた肌色。

ページを捲る細い指に、整えられた爪先。

伏せた瞳を縁取る睫毛。

その下の、美しい琥珀の瞳。

 

見惚れるこちらの視線に気が付いて、その双眸がゆるりと弧を描く。

 

"ねえ、デートに連れて行ってよ"

 

無邪気に笑って、そう言った。

 

 

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大変だ、もう2021年だし前回の更新から半年以上経ってる(震え

現実逃避したくて書いたけど、内容の破壊力に今心の中で吐血してる(gkbr

もう心の中は血塗れだよ。どうしてくれる

どうして...どうして......

 

14:海の見える街(青木晋太郎)※Instrumental