●●の声を聴きたくて、毎日のように電話に手を伸ばす。

けれど、いつも少し考えてから、そろそろと伸ばした手を引っ込める。

また伸ばして、考えて、引っ込めて。

その繰り返し。

 

そんなことをしている内に、電話が鳴るのだ。

それはまるで、いつものように、

なかなか手を出せない自分の手を取って、先に立って歩いてくれるような。

 

『今日は偶然サー・トリガーに会ったんだ!』

『もうすっごいテンション上がってさぁ』

『●●が変われ変われ、って煩くて。無理言うなっての』

『●●が後ろ向けばいいだけの話だろ~』

『俺も話したいんです~』

 

受話器越しに聴こえてくる声は、2人分。

他の人は声まで同じだと苦笑いするけれど。

いつも聞いていれば、判るものだ。話し方ひとつ、笑い方に、ちょっとした間の取り方。

口癖、あとは…順番も判断材料、だろうか。

 

●●の声はいつも、胸の辺りをじんわり温めてくれる。

けれど、耳を押し当てている電話の無機質さが、

背中に当たる固い壁が、自分の足しか見えない床が、

●●がここにいないことを、

自分が一人ぽっちで座り込んでいる現実を、まざまざと突き付けてくるようで。

それがどうしようもなく寒くて、身を竦めた。

 

『…ひょっとして、元気ない?今日何かあった?』

なんでもない。

『嫌なことあったら、いつでも言ってよ』

大丈夫。

『電話一本で駆け付けるから』

…………。

 

会いたい、も。

ありがとう、も。

 

たった一言、そのどちらもまた言えずに、

寒いだけ、と

ぽつりと口にする。

 

『え、大丈夫?風邪ひいてない?ちゃんと暖かくして寝るんだよ』

『俺らは君に会えなくて心が寒いんだけど』

『あはは。俺らのメンタルが凍死する前に戻らないとな。なあ、●●』

『なあ、●●』

 

全く。

どんなに隠そうとしても、この2人には何でもお見通しなのだ。

きっとただの口約束なんかでなく、

電話一本で、それこそ息を切らして駆け付けてくれるのだろう。

 

そうしたら、その時こそは、こちらから手を伸ばそう。

●●の大きな手を取って、握って、

抱き締め…るのは、体格的に難しいかもしれない。

 

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6:One Call Away(Charlie Puth)