今日、

職場からの帰りがけに。

ひとつ、後悔をした。

 

なるべく、後悔をしないように生きている。

やらずに後悔するなら、やった方が百倍マシだと思っている。

後になって自分の行動に嫌気が差すのは、未練がましくて嫌なのだ。

 

だから、できるだけ後悔のないように生きている。

だから、声を掛けようと思った。

帰り際に振り返った先、

エレベーターを待っていた背中が、その人だということを認識して。

 

声を掛けないと、と思った。

今、声を掛けないと。

もう、その機会は二度と来ないかもしれないから。

口まで開けていたと思う。

息を吸って、名前を。

 

けれど、

 

 

 

エレベーターが開いて、入れ違いに出てきた人達が通り過ぎていく。

きっと、変な奴だと思われただろう。

エレベーターの方を向いたまま、その場に立ち尽くしていたから。

 

その人は、あっという間に閉まったエレベーターの向こうへ消えてしまった。

どっ、と後悔が押し寄せる。久し振りの感覚だった。

滲み出るそれに、口元を歪めずにはいられない。

 

名前を呼びたかった。

なりふり構わず、声を掛けたかった。

なぜなのか、どうしてなのか。問いただして、引き留めたかった。

きっと、優しいその人は、困ったように返事をしてくれるから。

 

なぜできなかったか?

その場にはもう一人いたからだ。一緒にエレベーターを待っていた「彼」は、

それを知らない人だった。「それ」を知らせてはいけない人だったからだ。

だから。…喉元まで出かかった声を、どうにかこうにか理性でぐっと引っ込めた。

 

願わくは、もう一度機会があることを。

それが無ければ、久し振りの、とてつもなく大きな後悔のひとつになる。

引き留められるとは思っていない。

けれども、自分はあなたを尊敬していますと、あなたにいて欲しかったと、

そう伝えたかった。

 

 

誰よりも努力をしていると、そう思える人だった。

正当な努力は、正当に評価されるべきであると、そう考えているもので。

万に一つ、それが脅かされるような理不尽があったのなら、

自分はそれを許せないだろう。

 

才能は持っている人とそうでない人がいて、確かに大事な要素のひとつではあるけれど、

努力は誰にだってできるものだ。

だから、才能がなければ努力すればいい。

いくら才能があったとしても、努力しないような奴に、努力する人を笑う権利なんぞない。

 

 

願わくは。

あの人が、幸福に生きることを。