真面目くさって諭すのも、ココロに真剣に寄り添うのも、柄じゃない。

そういうのは二人でやればいい。俺は精々ちょいとばかり愚痴を聞いて、へいへい御馳走さん、と呆れながら揶揄うくらいが性に合ってるのだ。これは大半がフレデリックの教えだが。

――誰にでも人恋しい時はある、と。あのシオドアさえもそう言っていた。お前が二人にその役割を求められているなら、それに応えるべきだとも。シオドアが人恋しいと感じる時って一体どういう時なんだと訊いてみたかったが、やめた。途方もない宇宙の歴史の話から始まりそうな予感がしたからだ。

それはそうと、なかなかどうして、恐らく一般の平均よりも寂しがりなこの二人には振り回されてばかりである。明後日の方向に行きかけた思考を戻し、ウサギかな?と薄目を開けて様子を窺えば、白く長い睫毛が顔に触れそうな程近くにあった。残念、白は惜しいがその目が赤くないのはよく知っている。

 

最初は唇に、次は鼻の頭に。瞼に額にと、次々柔い感触が降ってくる。犬に対する餌付けのような、戯れのそれ。甘んじて享受していると、肩を押されたのでそのままベッドに仰向けになった。薄暗い部屋の中で、こちらを見下ろすカナリアの双眸が緩く三日月を描いている。

 

「なんだぁ、浮気か?」

「冗談」

 

鼻で笑う仕草が全く嫌味なほど様になっていて、これで何人の男を堕としてきたんだろうな、とかどうでもいいことを考えた。残念ながら、この美しい容姿の持ち主は男への興味・関心が薄かったようだが。

 

「従順な息子にご褒美よ」

 

悪戯っぽい笑みを浮かべ、吐息が頬に触れそうな距離でそう囁くと、再び口を塞がれた。さっきよりもやや深い。甘ったるい酒の匂いに顔を顰めると、キャメルは喉の奥で小さく笑った。

すっかりいつもの調子が戻った彼女に、ジェリーはやれやれと内心溜息を吐く。もう本日何度目だろうか。この家に帰ってきた時点で既に数えるのを止めていたから、逃げた幸せの数についても考えるのを止めた。

――こういう時、男なら抱くのだろうな、と思う。フレデリックのゲス野郎なら間違いなく抱くだろう。俺も抱けないわけではないし、実際にアレソレをした数なら両手の指が足りない程度には経験がある。

 

ただ、俺は決して自ら「施す」側ではない。許しを得て「奉仕する」側だ。

そこを履き違えたことはない。許可が無ければ、キスの一つもできやしない。

いいように求められて、いいように扱われる。

そういう玩具だ。

 

「そりゃどうも。てか酒くっせぇな、マリンが帰ってくるまでにどうにかしろよ、それ」

「……帰ってくるかしら、あの子」

「今日中には帰るってよ。メロウが言ってた」

 

俄に不安な顔を見せた彼女に、頭をやや乱暴に撫でて安心させるように言ってやる。

そう、よかった、と彼女の口から素の言葉がぽろりと落ちた。

 

「あいつが最近多いって言ってたのも、原因はコレか?」

「そうね。…最近、立て込んでて。ちゃんと休ませてよ、って叱られるの」

 

それでいっそ声帯を、か。ジェリーには何となく、本日の試合の開始ゴングが予想ができた。

首筋から喉にかけてそっと手を沿わせると、手のひらが滑らかな女の肌の感触を伝えてくる。やや体温が高いのは酒の所為もあるだろう。くすぐったいのか、くすくす笑うと鎖骨が浮き上がって――その感触の違いもまた随分、煽情的だと思う。

 

「のど飴でもしこたま買ってきそうだな」

「ええ、私ハニージンジャーティーがいい」

「知るかよ。ホラ、暑っ苦しいんだよ、主にあんたの胸についてる無駄にデカイものが」

「最低。ばか」

 

いい加減離れろ、と身を起こしてキャメルをぽいっとベッドに放り出せば、揶揄うような調子で幼稚な批難を寄越してきた。今一度顔をちらりと見て、もう大丈夫そうだな、と再確認する。

転がされた酒瓶を片付けようと腰を上げると、またもぞもぞとブランケットのお化けに戻りつつある彼女から引き留められた。

 

「なんだよ」

「アレ、お願いね」

「わあってるよ」

 

頷けば、頬に軽いキスをひとつ。本当に犬の躾みてぇだな、と苦笑いもしたくなる。

相方が帰ってきた時に二人で飲む、二人が好きなミルクティー。キャメルはジンジャーやシナモンといったスパイス系が気に入りで、マリンはキャラメルやショコラを加えた激甘が好み。

5回目の呼び出しから、用意するのは俺の役目になった。その前の喧嘩はなかなか派手なもので、家出した方が戻ってきてからもどうにも収まりがつかず、見かねた俺が(いい加減にしろという意味を多分に込めて)ミルクティーを淹れてやったらあまりの不味さに二人共笑い出して、それであっさり終了、だ。女ってのはよく解らん。

拘りの強いキャメルから徹底的に指南されて、今では二人のお墨付きだ。ジェリーのミルクティーを淹れるスキルだけが異常に高いのは機工部の女性陣には割と有名な話で、恐らく機工部七不思議の一つくらいに思われているんじゃなかろうか。

 

今夜はジンジャーにハチミツでも加えてやるかね、と思ったところで、

good boyとメロウに笑われたような気がした。

 

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偶然にもRookee's gardenと同じ記事数で終了。

途中グダッたけど、これ要らんな、とスパッと切ってよかった。#53のプロットが4つを超えた辺りでもうこれ違うな、って思ったもん。書きたい要素だけ書いてるんだから、余計なものは要らないんですよ。

一人称が微妙に揺れてるのは途中から自覚してました、サーセン

 

カッコいい男(ジェリー)が如何にカッコ良くて、如何に残念かを書きたかったかに尽きると言っても過言ではない。見た目も中身もイケメンと評して申し分ない彼が、人々に振り向かれる魅力を持つ彼が、飼い主2人には振り向いてもらえないっていうね。

玩具扱いしかされない不憫。玩具(意味深)なんでね、そこんとこ察してね。ああ残念だなぁ、全く残念だなあ。でも超好き(笑)

いやあ、我ながら歪んでるなあ~~~