リアルな召喚ゲームをやっていた。
敵を倒した後、一緒に戦っていた仲間達がそれぞれ一言二言、別れの挨拶をしてログアウトしていく。ダンジョンの最奥だったそこには、自分と彼女の二人だけが残った。
壁に人一人座れるくらいのスペースがあって、触るとふかふかの布団みたいな感触だった。
自分はそこに座って、彼女が寂しそうにしてるのを見ていた。
何となく、気持ちは解らないでもない。
そっと彼女の頬に手をやって、静かに囁いた。
「ここは君の世界なのだから、
最後くらい、君の好きにしたっていいじゃないか」
世界はどんどん人の手が加えられていく。
皆追い出されて、残ったのは二人だけだ。片付けたそうにしている人達が、陰湿な視線をじっとこちらに向けている。
彼女は目を丸くして一つ頷くと、彼女の大事なものを持ってさっさと行ってしまった。
一寸呆気に取られたが、くっと笑みが漏れた。最後まで付き合おうと、その辺に放り出してあった鞄の中身を慌ててひっくり返した。必要最低限でいい。大事な財布と、筆箱。その他適当にまとめて鞄に突っ込んで、急いで彼女を追ったけれど、もう彼女の姿は見えなかった。
まばらに残っていた人達に行く先を訊ねると、あっちと指差してくれたのでそちらへ進む。
そこは花屋のようにも見えた。植木鉢がずらりと並んで、色とりどりの花が咲いている。
誰かの秘密の場所にも見えた。カメムシのプリン(?)にはちょっと引いたけど。
小さな小さな、彼女の秘密の場所だった。
でも彼女の姿は見えないので先に進むと、食堂か居酒屋のような、テーブルと席が並んだ場所に出た。席は殆ど埋まっていて、客の中に顔見知りの姿が見えた。
そこは思い出の集う場所だった。彼女と出会った人達が、思い思いに語らっていた。
しかしそこにも彼女の姿はない。
卓の一つに座っていた一人が、こちらに気が付いた。自分のよく知る人物だ。
彼は笑っていて、泣きそうでもあった。嬉しくて堪らない、といった表情で。
…ああ、自分は彼の笑顔がとても好きだった。
彼は彼女の居場所を教えてくれた。「あっちですよ!」
彼が示した扉を抜けると、外へ出た。そこは開けたデッキのような場所で、沢山の人々が歓声を上げていた。
ああ、彼女がここにいる。
人々を掻き分けて、高揚のままにテーブルの上に上がり、
右手を高々と挙げて名前を呼んだ。
「■■■!」
眼前に聳え立つ建物の上の階に、「今の」彼女の姿が見えた。
髪が長くなった、歳もとった。
一瞬不安が過ったけれど、そこには確かに彼女の面影があって。
満面の笑みを湛えるその姿に、酷く安心した。
人々は喜びに満ち、自分も彼女も満たされていた。
彼女が口を開く。
ああ、彼女は幸せなのだと、ちゃんと幸せになったんだと、
胸がいっぱいになって、涙が溢れた。
彼女の言葉を最後までちゃんと聞きたいと思ったけれど、
それを忘れたくなくて、憶えていたくて。
忘れたくないから、起きた後も憶えていたいから、
残念だけれど、目を覚ました。
自分は、きっと泣いていたのだろう。
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最近の夢オチその2。
でも彼女は知らない人なんだよなあ(笑