「で?」
『だから、喧嘩して、あの子が出てったの』
「…そのうち戻って来るんだろ」
『なによ、あの子が呼んだら飛んで来たのに、私の時は来てくれないの?』
「……………」
ああああああぁあぁああああぁぁめんどくせえ!!!!!!!!!!
という叫びが喉を通り越して口元まで出掛かったのを、ぐっと口を引き結んでどうにか堪えたその時の俺の表情は大層愉快なものだったらしい。それを見ていたハンマーには今でもたまに引き合いに出されて笑われる程だ。
無言のままブチッと通話を切り、文句の一つや二つや五つくらいは言ってやろうと勢い実家へ向かったのはいいものの、耳が垂れた犬のようにすっかりしょげているキャメルを前にしては、用意してきた筈の文句も並べ立てることができなかった。
目元を赤くして、出て行かれるのってこんなに堪えるものだったのね、と自嘲気味にこぼすキャメルは何処か危うげで。前回は驚きが勝ったが、今回は戸惑いが強かった。キャメルもマリンも強気で可愛げのない女だが、特にキャメルは涙を見せることなど滅多に無かったからだ。
率直にそれを伝えれば、「あの子に心配掛けたくないじゃない」と薄く笑うのだ。
キャメルはそういう女だった。
その日は静かに彼女の話に付き合い、戻ってきた相方と仲直りして、二人が眠りについたのを見届けてから家を出た。
そんなことを何度か繰り返す内に、これがお決まりの流れになってしまった。
キャメルが家を出た時はマリンが、マリンが家を出た時にはキャメルが。それぞれ俺に「呼び出し」コールをしてくる。こちらが難色を示せば、相方の時は来たのに不公平だの何だのと宣う。子供か。
それなら最初から"命令"すればいいだろうに、あの二人はそれをしない。飽く迄「お願い」だ。
中途半端に振り回されるこちらの身にもなってほしい。
そして、あれは、何度目のことだったか。
マリンからの呼び出しだった。また今度は何をやらかしたのかと呆れて問えば、何もしていないと言う。何もないのに、キャメルが朝早く出たきり帰ってこない。連絡をしても返事が無い。その時、既に時刻は夜に差し掛かっていた。何も予定は聞いてない。その日は休日だったが、念の為連絡してみても職場にも行っていない。
試しに自分から連絡しても案の定だった。どうしよう、と不安を隠さない彼女に、とりあえず行くから待ってろ、と言い置いて、その足で実家へと急いだ。
そうして、また久々に実家の扉を開けた先で。
言いつけ通り、玄関でずっと俺(か、若しくは相方か)を待っていたらしいマリンの姿を見て――俺は、キャメルの家出の理由を悟ったのだ。
マリンの、彼女の、目が覚めるほどに鮮やかな色の瞳を見て。
ああ、こいつは、何てことをしてくれやがったんだ、と。そう思わずにはいられなかった。
「あんた、なんで――」
だから、涙声で困惑を訴える言葉にも耳を貸さず、その場で彼女を問い詰めたのだ。
何故あいつが大好きだった、澄み切った真夏の空のような、
どこまでも眩しい青色を捨てたのだと。
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ちょっと短いけど、区切りがいいのであげてしまう。
はー、ジェリーイケメン(寝言