「何スか、『よう分からんけど深入りすんな』って。丸投げもいい所っすよ」
『やって、俺には判らんかってん。あいつに夢見させとくか、現実を叩き付けるか。
そこはお前さんが一番よう判っとると思うし、俺が言うトコちゃうやろ』
「そりゃそうですけど…。ま、それはそれとして。
実際、ユーズさんなら、分かってるんスよね?」
優しい相棒の心につけ込んで、弄んで、惑わせて、誑かして、連れ回している、
悪趣味な奴だ。
ユーズさんが強く出ない辺り、害は無いんだろうけれど、
それがいつまでも続くとは限らない訳で。
何より、原因が判らないのは気持ちが悪いし、俺に言わせてみれば、本当に趣味が悪い。
すると、彼にしては珍しく、少し困った風に腕を組んで、首を傾げた。
『まあ、それは、流石に。分かってはいるんやけど…ちょいと、厄介な奴でな』
「え?」
予想だにしなかった答えに、思いがけず素の声を上げてしまった。その発想は無かった。
この業界でユーズさんが手こずるような相手がいるなんて、ちょっと想像できない。
そこは相棒含め、知ってる奴なら全員揃って同意するだろうし、
何より、ユーズさんも自負している筈だ。
「知り合いなんすか」
『あー、お互い知ってるっちゅう意味では、知り合いやけど。それ以上でも以下でもないな。
…あれはな、そいつの、ちょっとした悪戯みたいなもんでな』
ユーズさんが言うには、
過去のログイン情報を使って、紛れ込ませて、あたかもその人物が存在するかのように見せているのだという。
何のために、と訊いたら、素っ気無く『暇潰しやろ』の一言。
その口振りには、浅く軽蔑が含まれていて、俺もそれには同意だ。
『ほんまにしょうもないことしよるんよ、そいつ』
「…マジでしょうもないっすね」
『やろ?世間知らずの悪ガキでな。一発ヤキ入れたろ思うねんけど、…それがなぁ』
「ユーズさんが躊躇する相手とか、この世にいるんすね」
『おま、俺のこと何やと思っとんねん…。
しゃーないやろ、あそこは、あれの庭みたいなもんやから。
自作の迷路で迷ってんのを眺めて楽しんどるだけやから、攻撃とか侵入の心配は無いし、
身内に手ェ出すなとも釘刺してある。ま、「足跡」を辿らんのが一番なんやけど』
「それはまだ無理そうっすね。…あと、手ェ出してきたら刺し違えてでも脳髄焼きに行くんで。
そん時はお願いしますね」
『おお、怖い怖い』
二研の赤組はほんま、猛獣やな。
その呟きに、俺は歯を見せて笑った。
「あ、誉め言葉です?どうもどうも」
----------
あとがきのような何か。
つい最近、このコンビに関わる新要素が浮上して、
ひさーしぶりにこのコンビの話を書きたくなった。
古参ですねえ。大分初期からの登場人物なんで、多分もう15年以上の付き合いですねえ。
もうほぼほぼ設定としては固定された感があって、これ以上特に追加する要素も無いだろうなあと思っていたのに、何でか知らんけど追加要素が出来てしまった。
真面目でお堅い、やや神経質、知性派だけどたまに暴力的、努力型秀才のブラスくん。
考えるよりも行動派、考えるな感じろ、自由奔放で楽観的、困った蒐集癖持ちのヒドくん。
正反対な気質の、判り易い凸凹コンビですね。
今、なんとなく振り返ってみたけれど、自分の世界では割と珍しいコンビかもしれない。
いいコンビだと思ってます、割と。(自画自賛)
ブラスくんが頑張って冷たい人みたく振舞ってる所とか、ツンデレしてる所とか、
赤組な相棒の言動に困惑することもあるけど、それを受け入れようとしてる所とか。
ヒドくんはそういう努力に気付いてるし、嬉しいと思ってる(言わないけど)。
自由奔放でふざけてるように見えても、割と空気読むのが上手い子で、
真面目すぎて色々抱え込んじゃう相棒の肩の力を抜かせてあげてて、
ブラスくんもそれを解ってて、でもお礼は言わない。
そんな二人。
なーんか。
お互いを対等に見てて、お互いの違う所を認め合って、尊敬してもいて、
お互いのダメな所を理解して、補い合って、そこに一切の遠慮が無い、っていうのは。
こいつらだけなんじゃないかなあ。
ぱっと思い出せる限りだから、たぶん他にもいるとは思うけど。
何だこいつら。歳の近い兄弟とか熟年夫婦よりレベル高ぇな(笑
新要素、ってのが今回のハーシェ(略)の件なんですけどね。
それもそうだし、もう一つ別の要素が出てきたことでブラスくんと、(略)の3つの要素が繋がって、今回の乱文を書くに至った訳ですが。
今回の話を書いてて、この二人の人物像がまた少しはっきりしたと言うか。
あー、こういう奴だったんだなぁと、再発見。
やっぱり、好きですねえ。このコンビ。