俺と相棒は違う。

俺は、相棒がとても仲間想いなのを知ってるし、

何より、ハシェのことは特別、尊敬していたというか、心を許していたのを知っているから、

自分にも他人にも厳しくて、プライドもそれなりに高くて、先輩達のことを尊敬こそすれ、態度で示すことなんて滅多にない相棒が、

ハシェにだけは、素直に負けを認めて、敵わない、と本人にも周囲にも公言していたから。

 

だから、諦めきれない気持ちは、解らなくもないし、

俺は、相棒は、それでいいと思っている。

すぐに受け入れろなんて言わない。

ハシェを失った形を思えば、尚更。

相棒が悔しそうな表情をするのも解る。

実際、悔しくて、悔しくて、本当に悔しくて…堪らないのだろう。

 

けれど、ハシェは過去の人物だ。

相棒と違って、俺はそれ以上を考えない。

ハシェは仲間だったけど、いい奴だったけど、死んだ。以上。

もしかしたら、なんて、そもそも考えないし、期待もしない。

「足跡」を見付けたとして、何かのバグか、性質の悪い悪戯だろうと、流すだけ。

あいつは死んだという、揺るがない事実があるから、俺は迷子にはならない自信がある。

 

冷たい奴だな、と言われても、まあ仕方ないと思う。というか、実際他所の奴には言われる。

俺、二研製なんで。別段、そういう風に言われても、痛くも痒くもない。

相棒も、俺がそういう奴だと知っていて、さらに言えば、二研自体がそういう所だってことは、

ちゃんと理解してるから、

感情のままに、大人げなく、俺を批難したりすることはない。

 

俺は、相棒に俺の考え方を押し付けるつもりはないし、相棒もそうなんだろう。

相棒には相棒の感じ方や考え方があるから、俺はそれを大事にしたいし、

考え方の違いも含めて、お互いの手の内を知って、

それを受け入れた上で、パートナーとしてありたいと思う。

ジンさんみたく、パートナーを自分色に染め上げるのも、一つのあり方だとは思うし、

何より、その方が色々とやり易いんだろうけど。

でも俺達は、こっちの方が合っている、気がする。

 

「これ以上、ここに物増やすなよ。既に物置部屋になってるのに」

「物置言うなよ。あれだ、博物館とかの、展示品の保管室みたいなもん」

「寝言は寝て言え」

「スミマセンデシタ」

 

さっと神経コードを出してきた相棒に、思わず身を引いて、即両手を挙げて降参の構え。

そのままの体勢で五秒間くらい、お互いにじっと見つめていたけれど、

俺が先に小さく噴き出して、そしたら相棒も、思わずといった感じで、ふ、と口を歪めて。

俺は腹を抱えて、相棒は口元を手で覆って、

二人で声をあげて笑った。

 

「なあ、ブラス。さっきの、約束だからな」

 

念を押すようにそう言えば、

観念したように、「わかったよ」と相棒は応じた。

それを聞いて、俺はまた心底安心する。

 

きっと、

これからも相棒は心の何処かでハシェの背中を探すのだろうし、

そうしたらまたふらふらと、あそこで迷子になるんだろう。

俺は、それを許したい。

もしかしたら、なんて、相棒が欲しい言葉は決してくれてはやれないし、やらないけど、

相棒を見付けて、こっちへ引き戻してやるのが、俺の役目だとも思う。

 

相棒は、俺と違って優しいから。

でも優しいだけじゃなくて、我慢強くて。

その、割とすぐに弱音を吐きがちな、ラのつく先輩とか、キのつく後輩とか。多分、本音を言ってしまえば、相棒もあっち側なんだと思うけど、弱い所は見せたくないから、

精一杯、冷たい顔の仮面を被って、こっち側の振りをしていて。

異常者の集まりだと揶揄される二研の中で、とても頑張っているから、それを知っているから、

甘やかしたいと思うし、俺にくらい、甘えてくれたっていいんじゃないか。

俺は、彼の相棒なのだから。

 

----------

 

「ブラス」

 

声と共に、肩に手を掛ければ。

びくり、と肩を上げて振り向いた相棒は、目をいっぱいに見開いていて。

俺だというのをようやく認識して、ぱちぱち、と何度か目を瞬いて、それから、周りを見る。

 

「…またか」

「いいって。ほら、帰ろうぜ」

 

謝罪を口にされる前に、ぐい、と腕を掴んで、歩き出す。

いつもは俺を誘導する立場の相棒が、この時ばかりは俺に引かれるまま、素直に従う。

この感覚が、俺は何となく嬉しくて、嫌いじゃない。

 

 

だから。

こいつは、俺の相棒だから。

何処の誰だか知らないが、お前なんかに渡すつもりはないんだよなあ。

 

迷子の迷子のブラスさんを見付ける度に、

何処かから確かに向けられている敵意に対して、俺は鼻で笑うのだ。

 

----------

終わらなかった()

まあ、次はオマケみたいなもん。