先手必勝。
そもそも、遠距離狙撃が得意な相棒に対して、格闘戦で負けることはない。
否。そもそも、「コイツが相棒でない」のならば、遠慮など要らない。
もしも、これが相棒だった場合は?
いやいや。「これ」で負けるようなら、やはりそれは、相棒ではない。
反射的に上げたのだろう、右腕を鷲掴み、強引にうつ伏せに押し倒す。
更に、勢いを付けて背中へ膝乗りになれば、小さな呻き声が下から聞こえてきた。
ぐい、と上着の襟を引き下げ、露になった接続ポートへ、
凶器とも言える、攻性プログラムマシマシの、神経コードが繋がったプラグを差し込む。
瞬間、
目の前が、弾けた。
「………馬鹿か、お前」
目を開けると、やたらと低い、淡いブルーグレーの天井が見えた。
ぱちぱち、と何度か瞬きをすると、視界がクリアになった。
見えていたのは、二段ベッドの、上の寝床。
どうやら、ログアウトしていたのは数分程度らしい。ヒドさんが現実にログインしました。
聞き慣れた罵倒に少し首を動かすと、相棒の顔が見えた。
項の辺りに手をやって、まるで汚物でも見るかのような、蔑んだ目を俺に向けている。
ああ、うん。そりゃあ、怒るだろうな。
そう納得しつつ、俺はと言うと、心底安心している。
先に言っておくが、俺はMではない。
ただ、
相手の自尊心をバッキバキにへし折るような、
そんな心から軽蔑した表情をするのはブラスしかいないし、
相棒やユーズさんのお陰で、身内でも割と難易度の高めな攻性プログラムを組んでいる、
俺の攻撃を返り討ち、どころか、侵入さえさせない徹底的な防ぎよう、の辺り。
ああ、これは間違いなく、相棒だと。ようやく、その確信が持てた訳で。
だから、俺は安心した。本当に。
「何で笑ってるんだよ。お前、本気で気持ち悪いぞ」
「ひでぇな」
もう一度言っておくが、俺はMではない。断じて。
相棒も、俺の行動の原因は解っているんだろう。滑らかに罵倒しながらも、少し気まずそうに視線を外した。らしくない態度の自覚はあったらしい。
そのまま立ち上がり、ベッド向かいのソファへ移ったので、俺も身体を起こした。
「ユーズさんは?」
そう言えば、と訊ねる。あの人なら、俺が起きるまで爆笑してそうなものだ。
「爆笑しながら帰った。…良い見世物だ」
眉間を揉み解しながら、相棒が苦い顔をして言う。俺も流石に苦笑した。
急に襲い掛かったと思ったら、即返り討ちに遭って、
ノされた一部始終を見られていたと思うと。
そんなの、見てたら俺だって爆笑する。なんだ、そのカッコ悪い奴。だっせぇ。
「ハシェを、捜してた」
唐突に。
何の前置きもなく、相棒がそう言ったものだから。
今までの会話の流れでまた呆れられたか、叱られたか、罵倒でもされたんだろうと、
適当に頷きそうになった所を、「え?」と顎を動かす直前で思い留まる。
ああ、言ってしまった。
また少し俯いた相棒からは、そんな心の声が聞こえてきそうで。
唐突に何を言い出したのか、俺には理解が追い付かなかったけれど、
とりあえず、理解の出来る範囲で、一つだけ指摘をしておくと。
「ハシェは、もう死んでるよ」
そう言うと、相棒はそっと顔を上げて、眉を少し下げて、
何処かほっとしたような、困ったような、
やっぱり、らしくない表情で、小さく笑った。
「そうだな」
「そうだよ。もしかして、やっぱり、そっくりさん?」
「…あのな。いい加減、そこ疑うのやめろ。もう一度ノされたいか」
「ヒェッ」
おどけて言えば、鋭くなっていた相棒の目元が、ほんのり和らぐ。
「今回は迷惑掛けたからな。…ユーズさんにも言われた。お前には、ちゃんと説明する」
お前には、というのを聞いて。
ああ、他の奴には話すつもりはないんだな、ってことと、
俺には話してくれるのか、ていう、パートナーとしての、優越感のようなものを感じつつ。
俺は促すように、こくりと一つ頷いた。
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早く書き終わりたいのに最近忙しい
どんどん文章見返さなくなってる。