『ヒー助』
声を掛けられて、振り返る。
そこには、自分でも割と容姿が似ているな、と思える人物が居て。
本当はそこには居ないのだけれど、けれども、彼はいつだってそこに居るのだ。
『また迷子になってんで。…迎えに行ってやり』
ほんの少し、呆れたような。
どこか同情するような、何とも言えない表情で、その人はそう言った。
目上の人の前と言えど、またかー、とつい苦笑してしまうのは許して欲しい。
「あざす。そんじゃ、早速行って来るんで」
『気を付けぇよ』
「はーい」
近くの適当な穴倉へ潜り込み、ポートを探す。あった。
クッションを噛ませて、接続。
座り込んで、目を閉じる。
膨大な情報の中から、どこかで迷子になっている、探し人の足跡を辿る。
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見てたんなら、連れて帰ってきて下さいよ!
前に一度、そう言ったことがある。
あの時は初めてで、みっともなく取り乱して慌てふためいて、あの人を責め立てた。
すると、あの人は『それはお前の役目やろ』と言ったのだ。
それをするんは俺やない、お前やと。
『あいつを迎えに行くんは、お前やないとあかんのや』
きっぱりと、そう言われてしまって。
俺は、無我夢中で探して回った。
必死になって駆けずり回って、血眼になって雑踏を掻き分けて。
不安と心配と混乱と恐怖と焦りがぐるぐるぐるぐると渦を巻いて、酷く気分が悪くて。
それでようやく探し人を見つけた時には、それらが一瞬で消え失せて、安堵がやって来るのかと思ったけれど。見つけた途端、すっ、と頭が冷えて。
ぐるぐると渦を巻いていた感情が、いきなり怒りに変身して、爆発した。
「お前、何やってんだよ!」
驚愕。
びくり、と肩を跳ねさせて振り向いた顔には、その二文字しか見当たらなかった。
普段の冷静さは何処へいった。
あんまりに驚いた顔をしてるものだから、まるで頭の内側からハンマーでめちゃくちゃに叩きまくっているかのような、矛先のよく解らない怒りもとうとう目標を見失ってしまったようで、
思わず、口の端が歪んでしまった。
それと同時に、ようやく戻ってきた疲労感と安心感に、ぶわりと包まれて。
もう怒ってます、ていう体を繕うのも面倒で。ああ、何だか、一人で恥ずかしいな、俺。
「よかった」
素直にそう呟いて、何処かへ行かないようにがっちりと抱き付くと、
探し人の相棒はまだ、驚愕を顔に貼り付けたままで、
大いに戸惑いながらも、腕を背中に回して、受け止めてくれた。
「……ヒド?」
「うん」
存在を確かめるかのように、小さく呼ばれた名前に、ただ頷く。
ああ、ニセモノかと思って警戒してるんだろうか。こんな場所だしな。
やっと少し冷静になって、俺だぞ、とパーソナルデータを一部チラ見せする。
いや見えてるけど、と返されて、うわ覗き魔かよ、透視スキル半端ねーな、とかやり返して、
くすくすと笑う程度には、お互い落ち着いたらしい。お互いに。
もう大丈夫、と自然に身体が離れる。
「なんで、ここに?」
「ユーズさんが迎えに行け、って」
「俺を?」
「うん。迷子になってるから、って」
「俺が?」
「そう」
相棒は、頭の上に?を浮かべてきょろきょろと周りを見た。
しばらく真顔でそうしていたけれど、不意に俺の顔の真正面で首を止めて、
「迷子だわ」
真顔でそう言ったものだから、思わず噴き出した。
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続き書いてたら予想以上に長くなっちまったので、一旦区切り。
何となく書きたかった何か。