急な斜面の上から濁った波が押し寄せ、そして引いていく。
奇妙なことに、それは「波」だった。遥か上の斜面の頂の、その向こうからそれは流れ落ち、そしてその向こうへとまた「昇っていく」のだ。
自分は向かい側の「海岸線」へと、急斜面の麓の辺りを突っ切るように走っていた。
急げ。
急げ。
もうすぐ「満潮」だ。
走っているここも、もうじきに水の底になる。
明らかに押し寄せる波の量が増えている。砂混じりの濁流になっている。
足を取られそうになりながらも、ひた走った。
向こう岸に着いた。間に合った。
一冊の本を拾った。良かった、この本は自分にとって大事なものだから。
周りにはかなりの人がいる。もう腰辺りまで水に浸かっていた。
波から逃げる人達の列に加わる。すると、見知らぬ年配の女性に声を掛けられた。メモ帳のようなもの?とこの人形を預かって欲しい、と。了承した。
そのまま列を進んでいくと、検問所のような所で制服を着た人に止められた。
左腕のバンド(識別用?)をチェックするらしい。腕を差し出すと、バーコードのような機械で照合が行われた。
それを確認して一言、
「報復により殺される可能性があります。時間は30秒です」
目元に一瞬迷いが見えたような気がしたが、相手は表情を変えなかった。
そのお陰かもしれない。ただただ、機械的に頷いた。
「わかりました」
「ご協力に感謝いたします」
覚悟はできていた。
感情を殺すことができた。
初めからそんなものは無かったかのように。
ただ、「その人」は違った。
「殺されるって、どういうことですか?!」
いつも、
いつも、「その人」は憤る。
理不尽さに。善でない行為に。正義でないことに。
整然と、悪を悪だと、声を上げて批難できるのだ。それはそれは、真っ直ぐに。
それが、いつも眩しかった。
制服の人に詰め寄るのを宥めて、列に戻した。列を乱すのは良くない。
そして、
検問所を後にしてから割とすぐに、
実にあっけなく「その瞬間」はやってきた。
さっき照合された、左腕のバンドが「それ」を示した。
それに気付いてすぐに、少し後ろを歩く「その人」を振り返った。
普段しないイヤホンをしている。周りの不安げな喧騒を聞きたくなかったのかもしれない。
でも、ダメだ。
もう時間が無い。
「母さん、聞いて」
両腕を掴んで、無理やりこちらを向かせた。
少し驚いた顔をして、イヤホンを取った。
「聞いて。…お願い、聞いて」
声が震えた。
相手の表情が変わったのを見て、ああ、伝わったと安堵した反面、殺した感情が込み上げてくるのが解った。どうしようもないくらい、頭が混乱しているのが解った。
「母さん、父さんの言うことをよく聞いて。
ううん、違う、父さんじゃないや。父さん、頼りないもんね。
…ごめんね、元気でね。
兄貴の言うこと、よく聞いてね」
ありがとう、
が、
間に合わなかった。
----------
久し振りに、自分が死ぬ夢オチ。
何となく切なくなる夢。
戦争状態にあるのか知らないですが、自分達の国と敵対している集団がいて、自分はどうやら彼らを攻撃するようなチームにいたらしいです。それで、彼らの報復によって死んでしまったと。
彼らが報復を宣言すると腕のバンドがそれを通知するようになってるらしく、通知されてから死ぬまでの時間は30秒。係の人が言ってたのはそのこと。
自分は報復があるかもしれないことは知っていて、だから割と冷静でいられたみたい。
通知が来た時も悲観とかはなくて、ていうか悲観してる場合じゃねぇって感じ。
でも、最後の台詞が自分らしくて、起きてから笑ったなあ。
言いたいことがまとまらなくて、こんな時なのに笑っちゃうみたいな。
言いながら、イヤ待って父さんじゃない、父さんじゃ頼りないじゃん(笑)って。
もし現実でこういう情況になったらって思うと、言いたいことはまとめておかんとなぁ。
そんなことを思いつつ、切なくなった夢オチでした。