急いでいた、というより焦っていた気がする
仕事をしなくちゃならないのに
どの部屋に入っても、使えるPCは埋まってたんだ
仕方なしに大学の外へ出て、どこへ向かおうとしたのかは覚えていない
踏切へ向かっていた
不思議な踏切で、線路があるのはとても高い所
でも高架でなく、線路までアスファルトの地続きになっている
だから踏切までは酷く急な坂道になっている
とても車じゃ越えられないくらいの斜度がある
遮断機が下りていたのが下から見えた
カンカンカン、とよく聞く踏切の音が鳴っている
何やら女性が一人二人、遮断機の内側へ入ったり出たりしている
大方、急いでいて無理矢理踏切を渡ろうとしたのだろう
いつも通り、呆れていた
踏切近くでは十人ほどの人が待っていた
急な坂をあともう少しで上り切る、という所で
遮断機の足元に置かれた白いチューリップの花束が目に入った
うわっと思わず目を反らし、少し坂を下りながら反対側の端へ足早に向かった
意味は無い行為だけど
何となく近寄りたくなかった
きっと最近、あそこで誰かが死んだのだろうと思うと
足が震えた 身が竦んだ
反対側へ行く間に電車が一本通り過ぎた
けれど遮断機は上がらない、カンカンカンと鳴り続けている
どうやら反対方向から電車が来るらしい
やっともう片方の遮断機の前まで来て、
ようやくまともに線路を見た
そこに、自転車に乗った女性がいた
長い栗色の髪
片足を地面につけて、自転車に跨ったまま
こっちを見てた
目が合った瞬間に、背を向けて駆け出した。
坂道を下りて、下りて、走って、遠くへ
一秒でも早く、少しでも遠く
電車が来る
轢死を、実際に目にしたことはない
想像に過ぎない
背後で轟音がした
人体が裂け、飛び散り、ばら撒かれる
離れたけれど 片腕だけは僅かに原形を留めていて少し当たった
ああ 気持ちが悪い
足を止めて振り向くと、坂道のあちこちに欠片と血溜まりができていた
人々が何事か囁いている
"止めたのにね"
"きっと子育てに疲れたんだよ…"
遮断機の周りでうろうろしていた女性達に、それで合点がいった。
さっき見た光景が衝撃的過ぎて、腕の当たった感触が気持ち悪くて
頭の中がぐるぐると回った
目が合った瞬間に、
あの人は確かに微笑んでいたから
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轢死の夢オチは初めてな気がする。