しとしと、と雨が降っていた。
そんなに強い雨じゃない。小雨程度の。
でも地面はしっとり濡れていて、自分は傘を差していた。
どうやら靴を片方失くしてしまったらしい。
だから、自分は両足とも素足で濡れたコンクリートの上を歩いていた。
歩いている内に、片足だけでも靴を履けばよかったかな、なんて思っている。
そもそも、何で両足とも素足にしたんだろう。
片足だけ靴なのは気持ち悪いから、いっそどっちも脱いでしまえと思ったんだっけか。
でも素足で歩いていると、傷があったりしたら黴菌が入りそうで嫌だな。
ちら、とそんな心配をする。
胃腸炎でヤられて以来、やけに気になるようになってしまった。
そんな自分に苦笑する。自嘲、というやつだ。
まぁ大丈夫だろ、といつもの楽観的な自分が出てきて、気にせず歩いていく。
学校に向かっていた気がするが、思い返してみれば風景が全く違った。
けれども、自分は慣れた様子で歩いていく。
そう、そこのT字路を左に行くのだ。
少し急がないと。
時間に間に合わなくなりそうだ。
もうすぐT字路にぶつかる寸前で、名前を呼ばれた。
『 』
何だろう。
でも、少し急いでいるんだ。
足は止めなかった。
『 、』
また呼ばれた。
右の方から車が来ているのが見える。
この距離でこの歩く速度なら、あの車が来る前にT字路を渡れるだろう。
早く渡ってしまおう、と更に歩く速度を速めた。
寝坊はしてない、たぶん。まだ朝じゃない。それは知ってる。
寝坊した時に一階から響いてくる母さんの声でもない。
知ってる。
これが夢だってことも。
そう、夢だ。
そしてこの声も知っている。
『 !!!!』
一際大きな声で呼ばれた。
流石に足を止める。
………なにさ、
*****
ぱち、と目を開けた。
予想通り、まだ夜だ。
まだ寝てても問題無いし、あのまま夢を見続けてもよかった。
でも、あまりに名前を呼ぶものだから。
何か起こるのかと、少し待ってみたが何も起こらなかった。
なんでまた、あんなにしつこく呼んだのだろう。
あそこで足を止めなければ、事故か何かにでも巻き込まれていたんだろうか?
所詮、夢なんだけど。
知っている。
自分のことをそう呼ぶのは一人だけだったから、すぐ判った。
もう一昨年になってしまったんだから、時間の流れは本当に早い。
死んだ祖母ちゃんの声だ。
そんなに強い雨じゃない。小雨程度の。
でも地面はしっとり濡れていて、自分は傘を差していた。
どうやら靴を片方失くしてしまったらしい。
だから、自分は両足とも素足で濡れたコンクリートの上を歩いていた。
歩いている内に、片足だけでも靴を履けばよかったかな、なんて思っている。
そもそも、何で両足とも素足にしたんだろう。
片足だけ靴なのは気持ち悪いから、いっそどっちも脱いでしまえと思ったんだっけか。
でも素足で歩いていると、傷があったりしたら黴菌が入りそうで嫌だな。
ちら、とそんな心配をする。
胃腸炎でヤられて以来、やけに気になるようになってしまった。
そんな自分に苦笑する。自嘲、というやつだ。
まぁ大丈夫だろ、といつもの楽観的な自分が出てきて、気にせず歩いていく。
学校に向かっていた気がするが、思い返してみれば風景が全く違った。
けれども、自分は慣れた様子で歩いていく。
そう、そこのT字路を左に行くのだ。
少し急がないと。
時間に間に合わなくなりそうだ。
もうすぐT字路にぶつかる寸前で、名前を呼ばれた。
『 』
何だろう。
でも、少し急いでいるんだ。
足は止めなかった。
『 、』
また呼ばれた。
右の方から車が来ているのが見える。
この距離でこの歩く速度なら、あの車が来る前にT字路を渡れるだろう。
早く渡ってしまおう、と更に歩く速度を速めた。
寝坊はしてない、たぶん。まだ朝じゃない。それは知ってる。
寝坊した時に一階から響いてくる母さんの声でもない。
知ってる。
これが夢だってことも。
そう、夢だ。
そしてこの声も知っている。
『 !!!!』
一際大きな声で呼ばれた。
流石に足を止める。
………なにさ、
*****
ぱち、と目を開けた。
予想通り、まだ夜だ。
まだ寝てても問題無いし、あのまま夢を見続けてもよかった。
でも、あまりに名前を呼ぶものだから。
何か起こるのかと、少し待ってみたが何も起こらなかった。
なんでまた、あんなにしつこく呼んだのだろう。
あそこで足を止めなければ、事故か何かにでも巻き込まれていたんだろうか?
所詮、夢なんだけど。
知っている。
自分のことをそう呼ぶのは一人だけだったから、すぐ判った。
もう一昨年になってしまったんだから、時間の流れは本当に早い。
死んだ祖母ちゃんの声だ。