見るも無残に轢断された両脚。
中身が零れてるのだから、もう無理だと思うけど。
そういう周囲の諦念を背に感じながら、それでも携帯を手に、その場を少しだけ離れた。
助かる見込みはゼロに等しいかもしれない。けれど、救急車は呼ばないと。
知らず知らずの内に頭に刷り込まれた、それがまるで義務であるかのようだ。

番号をコールする。199、じゃない。確か、119だった。
コール音が響く。一回、二回、三回、四回、五回。まだ続く。
相手は一向に出る気配がない。
焦燥にかられる。

幼い脚の膝下辺りから、血がだらだらと流れ落ちて地面に溜まっていく様を思い浮かべる。
その膝下の先には、続いているはずの足先がない。地面にできた血溜まりの上に落ちている。
切断面から僅かに突き出た、肉に埋もれた骨が見えている。
ついさっき見た光景だ。

一度コールを切り、もう一度119を呼び出した。
コール音が響く。一回、二回、三回、四回、五回、……
お願いだ、早く出てくれ。
心の中で懇願する。助けて欲しい。あの子供を救いに来て欲しい。

コール音が続く。
焦りが募る。

早く、
早く、
早く、

コール音が続いている。


*****


何気ない時に、それをふと思い出す。
自分の向かいに座っていた誰か。
その人が自分に向けてくれる笑顔が、とても優しかったことを。
何を話していたんだろう。
その人はとても優しくて、
自分はとても安心して話せていた気がするんだ。


試験管を振っていたのは誰だったんだろうか。
試験管の底にはピンク色の肉片のようなものがって、それが透明な液体に浸かっていた。
その色しか憶えていないんだけど、それは酷く綺麗な色だったと思った記憶がある。
実験をしながらの、他愛ない話。
そういう日常は、自分にとっては酷く懐かしい。


機嫌を損ねてしまったかと、自分は慌ててその背を追った。
「ちょっと待って、     なんだ」
「何だって?」
その人は不機嫌な顔を隠さないまま、こちらをくるりと振り返る。
「     だよ」
「何?もう一回」
「だから、     なんだって」
「何言ってるんだ?分かんねぇ奴」
「待ってくれ!     なんだよ。どうして分かってくれないんだ?」
その人の後ろ姿に呼びかけたけど、もう振り向いてはくれなかった。


*****


思い出す時。
それは本当に何気ない時で、
ある時は電車の入口辺りに立っていて、向かいの人の脇の窓の外を眺めている時だとか、
セミナーでスライドをぼんやり眺めている時だとか、
音楽を聴いていてある歌詞を耳が拾った時だとか、
誰かと話している時だとか、

そういう時に、ふと思い出す。唐突に。何の前触れもなく。
そういう時、現実の映像は一瞬完全にシャットアウトされて、断片的な夢の映像が再生される。
でもそれはほんの一瞬で、すぐに現実の映像に切り替わる。
けど、頭の中ではうまく切り替えができていないようで、直後には夢の中で聞いた台詞が大音量で脳内に響いたりする。

本当に断片的にしか思い出せない時もあれば、
その断片を頼りにするすると他の断片を手繰り寄せられる時もある。
ただ、今回は無理らしい。


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最近見た夢オチまとめ。(と言っても二回分しかないが)
と、最後のは一度忘れてしまった夢を思い出す時の感覚。

ちょっと前に書いた119、アレはこんな内容だった(暗
その次は、断片でしか思い出せないエトセトラ。あの3つの内容がどう繋がっていたのか全く以て想像できないけど、繋がってたらしい。
相変わらず、夢ってのはよく解らない。。