飛びたくなる場所、ていうのがある。

跳ぶ、でなく飛ぶ、の方です。そういう場所を偶に見つける。
最も身近なのは大学の坂。一年の頃からずっと飛びたかった。飛べるものなら。
今でも自分の憧れは100%自力で自由に空を飛ぶことで、でも重力がある限りそれは不可能な訳で、だから夢を見てるだけ。空を飛ぶ夢を見てるだけでも幸せ。

大学は山の上にあるから、毎日坂道を上り下りする。
道の端は崖っぷちで、今の季節は木々が青々と生い茂っている。ただ、その中にぽっかり開けた場所もあって、そこからは低地の町並みと、その向こうの高台までを一望出来る。

そこから飛びたい、と通る度に切に願う。

白いフェンスを越えて、木々の間を抜けて、向こうに見える高台の、その向こうまで。
一息に飛んでいきたい。
どんなに気持ちいいだろうか。


あまりに空を飛びたいものだから、代わりに空を飛んでくれる子供を創った。
彼は自分の憧れそのもので、自由自在に空を駆けていける。飛びたくなるような空を見上げると、いつも彼のことを考える。

自分としては羨ましい限りなのに、当の彼はどうも不満らしい。
自分の足で立って地べたを歩く、普通に生まれたかったといつもこぼす。
更に言えば、名前も気に入らないとか。彼の名前は東と書いてあずま。災厄の風の名だ。

仕方がないだろ、そこは親のネーミングセンスを呪ってくれ。
大体、北じゃ寒太郎(だっけ?)みたいだし、南はタッちゃんに怒られそうだし、西ってのも何だかしっくり来ないし。
こいつは東だ!って名前だけは最初から決めてたのになぁ。
残念。親心子知らず、てのはこういうことなのかも知れない。

そんな彼は、まだ自分の中の最大世界と繋がっていない。
どこで彼をリンクさせようか、というのがちょっとした悩み所です。