口は素朴な疑問に混ぜた自身の本質への問いかけを音にして吐き出していた。
開くまでに刹那の葛藤があったが、口を閉ざすには至らなかった。訊いてみたい、その欲求が勝ったらしい。その対象は目の前で泣いている少女か、それとも自分なのか。
判らない。判らないが、訊いてみた。
「独りでいるのって、そんなに怖い?」
少女は迷っているらしかった。と言うか、本人がそう言った。
行くべき方向を見失った、身を寄せる安らぎの家を失ったかのような、悲痛さが感じられた。
だから泣いているのか、と判断する。そうか、これくらいの悩みで他人はこれ程までに悲痛さを感じ、涙を流すのか。
そう記憶した。
「本当は、あっちの中にいるのは嫌なの。怖いから。こっちの中にいたい。でも、あっちは泣いてる時優しくしてくれるの」
どちらのグループに入るべきか、悩みに悩んで極限状態まで来てしまったらしい。
君はそんなことに対しても泣く程悩むくらい真面目な子なんだな、と何処か場違いな思考を弄びながら、見上げてくる真っ赤に充血した目を見下ろした。涙をこぼして尚、下瞼は重そうな水滴を湛えていた。あ、こぼれた。
そんな時、ふと訊きたくなったのだ。「独りでいるのはそんなに怖いことなのか」と。
泣いている少女に、少女の選択を興味深そうな目をして待つ周囲の人間に、そして多分自分自身に。
怖いに決まっている。
だから人類は群れている。
これ程までに確固たる証拠も無いだろうに、自分はそんな下らない質問をしていた。
「もういいよ、アンタ泣くと面倒臭いしさ。そっち行けば?」
車椅子の怪我人だった筈がどうしてかベビーカーの幼児になっていた生徒に見舞いの品を渡す約束をしていたから、定期入れの中を探しながら、少女に向けられたその言葉を聞いた。
途端に、少女はわあわあと声を上げて泣き出した。
いつもこうだ。ウンザリする。
人と人の繋がりなんて、結局は言葉の上に載せられた言葉遊びみたいなものだろうが。
人はこんな風に、いとも簡単に人を傷付ける言葉を吐き出す。
自分の中に暗い感情が湧き出してくるのを自覚した。
いつも表に出すのを嫌っている、表に出ないように押し込めている感情だ。
「所詮、そんなもんか」
少女を責める女の前に立った。
「そんな言葉を軽々しく抜かせるとは、責任逃れが容認されるクソガキならではだな」
「、うっさい!」
この年頃には子供扱いが一番腹の立つ行為だということを、経験上知っている。
激昂に任せて出された拳はリーチが短すぎた。上半身を軽く後ろに引いただけで、拳は空を切った。
一旦湧き出した感情は止まらない。容器から溢れた黒い水は床へと這い出し、そこら中を水浸しにさせていく。
「ほらな?子供だろぉ」
笑いが込み上げた。暗い笑いだ。
可笑しくて、声を立てて、女を指差して嘲笑した。
女も泣き出した。それを見て自分は更に笑う。可笑しくて堪らない。これしきのことで泣くのか、お前は一体何処のお子ちゃまだ?
全く可笑しい。
人を言葉で傷付けるなんて、実に簡単なことだ。笑える程に。
泣ける程に。
-----
随分古臭い記憶を引っ張り出してきたな、と思った夢オチ。懐かしい、まだ中坊の頃じゃないか?ひん曲がった思考をしていた頃、今でもあんまし成長してないのが情けない。
教育実習に行って以来、中学校にまつわる夢をよく見るんだが、正直勘弁して欲しい。クソガキの頃は黒歴史だからあまり思い出したくないんだ。
なけなしの正義感から女を責めるけども、結局それは悪意あってその女を傷付けている訳で、女が少女にしたことと変わりはしない。そんな救いのない夢でした。
開くまでに刹那の葛藤があったが、口を閉ざすには至らなかった。訊いてみたい、その欲求が勝ったらしい。その対象は目の前で泣いている少女か、それとも自分なのか。
判らない。判らないが、訊いてみた。
「独りでいるのって、そんなに怖い?」
少女は迷っているらしかった。と言うか、本人がそう言った。
行くべき方向を見失った、身を寄せる安らぎの家を失ったかのような、悲痛さが感じられた。
だから泣いているのか、と判断する。そうか、これくらいの悩みで他人はこれ程までに悲痛さを感じ、涙を流すのか。
そう記憶した。
「本当は、あっちの中にいるのは嫌なの。怖いから。こっちの中にいたい。でも、あっちは泣いてる時優しくしてくれるの」
どちらのグループに入るべきか、悩みに悩んで極限状態まで来てしまったらしい。
君はそんなことに対しても泣く程悩むくらい真面目な子なんだな、と何処か場違いな思考を弄びながら、見上げてくる真っ赤に充血した目を見下ろした。涙をこぼして尚、下瞼は重そうな水滴を湛えていた。あ、こぼれた。
そんな時、ふと訊きたくなったのだ。「独りでいるのはそんなに怖いことなのか」と。
泣いている少女に、少女の選択を興味深そうな目をして待つ周囲の人間に、そして多分自分自身に。
怖いに決まっている。
だから人類は群れている。
これ程までに確固たる証拠も無いだろうに、自分はそんな下らない質問をしていた。
「もういいよ、アンタ泣くと面倒臭いしさ。そっち行けば?」
車椅子の怪我人だった筈がどうしてかベビーカーの幼児になっていた生徒に見舞いの品を渡す約束をしていたから、定期入れの中を探しながら、少女に向けられたその言葉を聞いた。
途端に、少女はわあわあと声を上げて泣き出した。
いつもこうだ。ウンザリする。
人と人の繋がりなんて、結局は言葉の上に載せられた言葉遊びみたいなものだろうが。
人はこんな風に、いとも簡単に人を傷付ける言葉を吐き出す。
自分の中に暗い感情が湧き出してくるのを自覚した。
いつも表に出すのを嫌っている、表に出ないように押し込めている感情だ。
「所詮、そんなもんか」
少女を責める女の前に立った。
「そんな言葉を軽々しく抜かせるとは、責任逃れが容認されるクソガキならではだな」
「、うっさい!」
この年頃には子供扱いが一番腹の立つ行為だということを、経験上知っている。
激昂に任せて出された拳はリーチが短すぎた。上半身を軽く後ろに引いただけで、拳は空を切った。
一旦湧き出した感情は止まらない。容器から溢れた黒い水は床へと這い出し、そこら中を水浸しにさせていく。
「ほらな?子供だろぉ」
笑いが込み上げた。暗い笑いだ。
可笑しくて、声を立てて、女を指差して嘲笑した。
女も泣き出した。それを見て自分は更に笑う。可笑しくて堪らない。これしきのことで泣くのか、お前は一体何処のお子ちゃまだ?
全く可笑しい。
人を言葉で傷付けるなんて、実に簡単なことだ。笑える程に。
泣ける程に。
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随分古臭い記憶を引っ張り出してきたな、と思った夢オチ。懐かしい、まだ中坊の頃じゃないか?ひん曲がった思考をしていた頃、今でもあんまし成長してないのが情けない。
教育実習に行って以来、中学校にまつわる夢をよく見るんだが、正直勘弁して欲しい。クソガキの頃は黒歴史だからあまり思い出したくないんだ。
なけなしの正義感から女を責めるけども、結局それは悪意あってその女を傷付けている訳で、女が少女にしたことと変わりはしない。そんな救いのない夢でした。