一面を緑の芝生に覆われた緩やかな丘の上に、一本の大きな樹が生えている。

緑の草原をさくさくと歩いていく。水分をたっぷり含んだ草は柔らかく、踏む時の感触も柔らかだった。

大きく枝を伸ばし、その先に沢山の若葉をつけた、大きな樹の影に入る。


深呼吸をした。ひんやりとした空気が肺を冷やした。

緑の葉っぱから新しく生み出される新鮮な酸素を吸っているような心地だ。

見上げると、幾重にも重なった枝によって細かに分断された日差しがキラキラと輝いて見えた。

眩しいな、と手を翳した。



広い木陰には脚立が置かれていた。脚立の先にはカメラが固定されていた。

静止画を撮っているんだな、と思った。脚立には老人が立っており、何やら作業をしている。近くの枝の若芽の手入れをしているらしい。

いつだったか、昔読んだ『木を植えた男』という本を思い出した。

あの本で出て来た男性と老人を重ねて、改めて樹を見上げた。立派な樹だ。


自分の他にもう一人、老人の手先を見つめている人物が頭上に居た。

正確に言うと、老人の手の先にある若芽を観察しているらしかった。やや太い枝に沿って寝転がる形で、その枝の先に芽吹いた新緑をじっと見つめている。

目を惹く淡いオレンジの瞳だった。

緑色の日除け帽を被っていた。帽子の下に見える短い髪は殆ど色が無かった。


彼は一言も口をきかなかった。話す気が無いと言うよりは、話すという手段を知らないようだった。

ただひたすら、じいと若芽を見つめていた。まるでその若芽が、一瞬たりとも目を離してはいけないものであるかのように。否、彼は目を逸らすという選択肢自体に一片の興味も無いか、彼の中にはそもそもその選択肢が存在していないのだろう。


「楽しい?」


問いに対する答えは返って来ない。彼の視線は1°も動かず、唇は1mmたりとも開かない。

当然と思える反応に苦笑も出て来なかった。彼の世界には彼と、視線の先の若芽しか無い。

それは恐らく、彼にとって最も自然体に近いことなんだろう。

オレンジの眼差しはとても静かで、そして美しかった。



小さい頃、自分は木登りが好きだった。

隣家の庭に年老いた大きな樹があり、兄貴や幼馴染や友人とよく登って遊んだりした。

樹肌はつるつるとしていたが、古くなった表面がべりべりと剥けるのは何だか恐ろしかった記憶もある。

でも好きだった。一人でも登った。

じいちゃんが植えた樹だと知ってからは、もっと好きになった。


登ってみたいな。

脚立の脚を一段借りて、近くの枝からぶら下がっている鎖を掴んだ。

脚立から足を放した途端、振動が樹全体に伝わり、自分の身体も枝も揺れた。

静止画がブレてしまう、とすぐに鎖から手を離した。


自分が仰向けに落ちて行くのを感じる。

平らなものに触れた辺りで、あ、と気が付いた。否、漸く思い出したのだ。


そんなもの、もう遅い。


後頭部、背中、尻、脚の裏側、一瞬遅れて踵。

身体の裏側に軽い衝撃と、直後に痛みを感じた。肺がどうかなった所為か、息がしにくい。

それも僅かの間で、すぐにむくりと上半身を起こした。大した高さでなかったお陰か、頭から落下せずに済んだらしい。

それにしても、予想以上に痛みが無い。辺りの土を見てみると、自分の落ちた所だけ黒っぽかった。水分をしっとりと含んだ、柔らかな腐葉土だ。触ってみて、握り、そのひんやりとした感覚を確かめる。


座ったまま見上げると、オレンジの目の人は微動だにせず、(勿論こちらに全く目をやることも無く)さっきと同じ姿勢のままで若芽を見つめていた。

老人の方は脚立の上から「大丈夫か」と声を掛けてきてくれたので、手を振って応えておいた。

流石に、今度は自分の失態に苦笑が浮かんだ。



俺、何で飛ばなかったんだろうなぁ。



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何を伝えたいのかイマイチ不明な夢オチ。

夢の中の自分は、自分が落ちたことよりもカメラの静止画が台無しになってしまったことの方に相当気を取られていて、「やばっ、ブレちゃったよ」急降下中→ズドン(落下)「ああ飛ぶの忘れてたorz」っていうような思考をしていた。

何で樹なんだろうなぁ。丘の上に一本の樹、てのはこの前書いたOG誌の話に近いが。

そしてオレンジの目に白い髪、っていう配色は…ラフの“ヤツ”そのものだけど…あいつ髪長いし途中からバーミリオンだし。緑の帽子とかどっから出て来たんだ。


まあ、この後もこの夢は続いてて、そっちは若干理解出来たんですが。

何かこっ恥ずかしい内容になってるのと流れが意味不明なので、ここで終了。


それにしても、最近の夢じゃ自分はデフォルトで飛べるようになってるのか。

まあ、この後確かに飛んでたけど…一昔前までは夢の中でさえちっとも飛べなかったのに、何でこの所見る夢だと自由に飛べるようになってるんだ?

自分の中の自分でも見えない所が、どこか変わっているんだろうか。