昨日、Yラボの姐さん先輩と一緒に帰りました。ドクタで、多分この3月に博士号を取得される。

この人とのことを書いておきたいと思った。すぐ忘れちまう、このバカな脳味噌が忘れても思い出せるように。



Yラボに来てから多分2回目の飲み会、新歓での2次会で漸くまともに話した人だった。

あの時の会話を自分はよく憶えてるけど、姐先輩は酒のお陰で殆ど憶えてなかったらしい。後からそれを聞いた時は、流石に苦笑するしかなかった。


「何でそんなに笑ってるの?」と彼女は言った。ケラケラ笑ってるけど、何が面白いのか解らない。そしてこう付け加えた、「笑う人は嫌い」と。

新歓の挨拶で、自分はアホみたいに笑ってたから、そのことを言ってるんだろうなと思った。

そしてその時に、ああ、この人とは解り合えないんだな、と思った。

自分は笑うのが好きで、別段楽しくなくても笑ってるのが好きだから。楽しくなくても笑ってれば楽しくなるし、その方が幸せだと思ってるから。

だから、それからその人の前で笑うことは止めた。必要以上に話し掛けることも、話し掛けられることもなかった。


そんな状態が3ヶ月近く続いたかな?

よく自分の居るお部屋に来る人だったから、その夜もヒーロー様と、先輩と、自分が居る時にお部屋に来ていた。ヒーロー様や先輩とは仲が良さそうだから、いつもその会話を聞き流しているだけで、自分は関与しなかった。

何のきっかけがあったのか憶えていない、けど姐先輩はその時、自分に声を掛けてきた。

「もう結構経つけど、全然仲良くならないね」と。そうですね、と苦笑で返した。こんな感じで、必要な時は会話は普通にやっている。


「私のことが嫌い?」

訊かれたから、素直に「いいえ」と答えた。嫌っている訳ではない。そうじゃなくて、

「私が貴女に嫌われてると思ってたんですが」。

すると、姐先輩は「何で?!私そんなこと言った??」

あれれ。では、正直に申し上げましょう。


「新歓の時に、『笑ってる人が嫌い』と仰った。自分はいつもヘラヘラ笑ってますから、どうしても貴女と話していると不快にさせてしまう。だから、話し掛けないようにしていたんです」


そう言うと、彼女は「私、そんなこと言った?」と訊いてきた。頷きました。

そっか、と呟いて、沈黙。自分は丁度帰る所だったので、失礼します、とそのまま帰宅。

それからまた暫く、同じような日々が続いた。そうだなあ、5ヶ月くらい?


先輩が就活に入られて、「他人から見た自分」を知る為の質問用紙みたいなのを周囲の人々に配っていて、そこへ姐先輩がいらしたのが最初のきっかけだったのかな、と今になって思う。

自分は先輩の分を書いていたのだけど、「私のも書いて」と頼まれた。

断る理由も無いので、いいですよ、と書いて渡した。

自分は思ったことをそのまま書いたつもりだけど、えらく喜んでくれたなあ。

こういうのは正直に書いた方が良いんだろうなと、生意気書いた所もあったと思うんですが。もっと表現力を身につけたらどうですか、とか。

でも、多分あれがきっかけだったんだろうな。


それから、自分が一人で残ってる時にいらっしゃることもあったりして、2人きりで話す機会も増えた。

姐先輩と他の人との会話を聞いてた時から感じていたけど、ものすごくはっきりとものを言う人だと思う。「バカじゃないの」とか「ムカつく」とか、感情を率直に伝えてくる。そういう人はあまり居ないから、逆にそこに惹かれたのかもしれない。勿論、自分も既に何遍も言われている。


「何それ、あんたバカじゃないの?」

「ええ、ホントにバカですよね」


そんな風な会話を繰り返した。怒る人は怒るだろう。

でも、だからこそ、彼女と話す時は不思議と素の自分で居られた。というか、自分自身のことを訊いてくれたのは、Yラボへ来て彼女が初めてだったんだと思う。

時には突っ込んだ話を振られて戸惑うこともあるけど、自分もありのままの自分を答えることが出来る。

自然体で居られる、ってなことだろうか。

まだそんなに話していない内から、いきなり深い所まで話をした。まだ誰とも話してないようなことを。


「私、人付き合いが嫌いなの。アナタはちゃんと人と付き合えるもんね」

「いや?そうでもないですよ。基本的には人嫌いなんで」

「そうは見えない。だって普通に他の人と話してるじゃない」

「うーん、そうですね…。いつからだったか、疲れたんですよ。人に対して常に気を張ってることに。それに、人付き合いも結構楽しいなって思えるようになったんです。そう思わせてくれたのは友人達のお陰ですけど」


どうしてこんなことまでぺらぺら話してるんだろう、という疑問も何処かで感じつつ。

でもそれは正しく自分の本音で。それを自分が他人に話している驚きがあって。

とにかく、そんな訳で姐さん先輩とは普通に話すようになった。

自分は嫌われてると思ってたから、こんなことになるとは予想外で、嬉しかった。



そこで、漸くもう一つの話が出てくる。

姐先輩はいつでも、人の本質を突いてくる。昨日もそうだった。

何のことはない、いつかも誰かに訊かれたような気がする。


一緒に帰ろう、と誘われて、じゃあこれ済ませたら行きます、と実験が終わった後でお部屋に迎えに行った。

その前にちょっとしたパーティーに行かれていたらしく、誘いに来て下さった時点で既に軽く酔っているらしかった。会話も大分アブナイ。


「ねぇ、キスしようよ」

「はい??私とですか?」

「そうそう。マスクの上からでいいからぁ~」(←自分は風邪っぴき中なのでマスク装備

「風邪がうつりますよ」

「大丈夫だって。マスクだから、舌は入れないからさぁ」

「…そういうことは大切な人とやるもんですよ」

「私は大切な人じゃないんだ~」

「そういう意味ではなくてですね」

「あ、ファースト・キス?そっか~、じゃあ私が奪っちゃマズイよねぇ」

「…そういうことにしておいて下さい」


こういう会話は、前にも一度あった。ので、もう大分慣れたものだ。「抱いて」と言われないだけまだマシだ。

その次の会話で、ギクっとしたのだ。


「私には興味無い?女は好きじゃない?」

「女が好きかと言われても…」

「そりゃ男が好きだよね、そうだよねぇ」

「別に、男が好きだという訳ではないですが」

「じゃあ、女が好きなの?!」

「いや…そういう訳でもないです」


答えながら、あれ、と思った。

こんな会話をどこかでした憶えがあるけど、昨日の違和感は結構大きかった。

男を好きだという訳ではない。女も好きという訳ではない。じゃあ、何が好きなんだ。それ以上に、

「好き」って何だっけ、という疑問が湧いた。


友人のことは普通に好きだ。それは「仲間」という「親しみ」、それが一番近い気がする。

それ以上の「好き」が人々には存在している筈だし、だからこそ結婚とかするんだろうけど、自分にはそれ以上の感情がぷっつりと途絶えていることに気が付いた。

友人以上の「好き」という感情について、全く感覚が無い。想像も出来ない。

考えようとしても、無しかない。


「人間に興味が無い!?」

「ああ、まあ、それが一番近い気がするような」


苦笑いしながら、考えていた。姐先輩の言う「好き」という感情について。

男が女を、女が男を好きになるのが一般的だし、自分もそれが自然だと思ってきた。まあ、別段それ以外の関係でも構いやしないが。

ただ、その一般論は果たして自分に当てはまるんだろうか。

自分はちゃんと異性を好きになるんだろうか。イヤ、その前に、誰かに対して友人以上の「好き」という感情をこの先抱くことがあるんだろうか。


まあ、結婚願望の無い自分にとっちゃ抱かなくてもいいことだけども。それが一番都合がいい。

ただ、思った以上に自分の感覚は死んでんな、ということを再確認しただけ。



まとまってないけど、この話はここでおしまい。うーん、自分でもよく分からんなあ。

姐さん先輩は本当に突っ込んだ話をしてくるから、偶に考えさせられることがある。