8年前。
ああ、あの時もこんなんだったのかな、と。
まばらに残った並木の葉と、その隙間から見える薄い水色の空と、飛んでいく戦闘機と。
その下で柔らかく、伸びやかに天へと響く若い歌声に耳を寄せて。
吹き抜ける風の寒さに身を縮めながら、少しばかり思い出してみました。
そんなことをしても、欠片も思い出せないんだが。
8年前の記憶は、もう自分の頭から消えてなくなっちまったらしいです。
きっとあの時も、自分達は同じ場所で歌ってた。
自分達が立っていた場所に、今の世代の子供達が立っていて、同じように歌っている。
それは思ってた以上に感慨深いことでした。
若い人間って、どうしてあんなに眩しく見えるんだろうな?
元から、歌うのは好きなんですけどね。
歌が好きだからなあ。合唱とか好きでした。歌ってるのも好きだし、聴くのも好きだし。
なんで好きかって聴かれても困る。理由に困るくらい好きなんだ。
何だろうな。
なんで、こんなに嬉しいんだ?
どうしてこんなに泣けてくるんだろうな。
あの時、8年前に。思い出せないけど、きっとその時に。
自分は今日と同じ場所に居て、あの時一緒に生きていた仲間達と同じ歌を歌って、楽しさや悲しさや、その他にも数え切れない、沢山のものを共有してたと思うんだ。
それを考えると、どうしてか泣けるんだ。
懐かしい、とは違うんだよなあ。懐かしむ記憶が無いからなあ。
それがとても淋しいことだとも思ったけど、それはもう諦めたんだ。
自分はそういう人間なんだ。
…こんな風に。
いつか、この想い出を思い出したくなる時が来るとは思わなかった。
振り返る必要の無いように生きてきたつもりだったからなあ。
ただ、また歌を聴けて良かった。
また歌えて良かった。
もしかしたら、思い出したい、と思ったことに泣けたのかもしれない。
あの時に感じていた筈の緊張を、高揚感を、喜びを、悲しみを、楽しさを、嬉しさを、仲間達を、歌声の記憶を。
何一つ残っていない自分の心を穿り出して、取り戻したかったのかもしれないな。