それは遠く遠く、どこかも知れない国のこと。

居場所を求めて彷徨う5人の子供達の、灰色のおはなし。


彼等には、拠り所とするべき家が無かった。

雨風を凌ぎ、柔らかなランプの灯をともし、心も眠ることのできる静かな場所。

そんな居場所を求めて、彼等は歩き出した。


来る日も来る日も、彼等は歩いた。円周上の世界を。

陽が昇り、沈み、月が昇り、また沈み。


どこへも行けない彼等の、終わりの見えない旅。


それが何をきっかけに環を外れたのか、誰にも知れない。

もはや何度目かも解らない。

それは、俯き、座り込んでいた場所から顔を上げて立ち上がった、すぐ後のことだった。



5人は一様に俯き、身を寄せ合って座っていた。

もうすぐ冬が来る。寒さに身体が震える。灰色の目は僅かに怯えていた。


ここでこうして、5人で座り込むのは、一体何度目のことなんだろう。

気が付く者はひとりも居なかった。ここが彼等の居た場所だということも、誰も気が付かなかった。

それは彼等にとって、幸なのか不幸なのか。

彼等の旅は終われない。


1人が立ち上がった。


「行こう」


まだ目的の居場所に辿り着いていない。

しかし、応えたのは2人だった。


「…おれたちは少し疲れたよ。行ってくれ」


残り2人を置いて、3人は歩き出した。

この先の洞窟を抜けた向こう、大陸から突き出た舳先の、その先へ。

そうすれば、少しは温かい場所へ出られる。


洞窟を抜けたのは1人だけだった。

あとの2人は、おそらく洞窟にいつまでも残るのだろう。


1人きりになった彼は、気の遠くなるような高さの断崖絶壁を進んでいく。

そこにはいくつもの巨岩が住んでいた。崖から突き出ては戻り、突き出ては戻り。

大きな目でちっぽけな彼を見、大きな口を開け、大きな声を上げて話しかけた。


『通りたいなら、通してやらんこともない』


言われるままに口の中へ入ると、巨岩は首をしならせて彼を次の巨岩へと放りだした。

巨岩が大口を開けて、彼をぱくりとくわえこむ。


『もう、どれくらい経つんかの』

『さあ…判らんよ』

『儂等は変わらんでなあ』


悠久の歳を経た、巨岩達の会話。

とりとめはない。ただ、轟音をまき散らしながら、低く深く重く、ひび割れた声が悠々と響く。

岩の崖に。海風に。海鳥の鳴き声に。遥か下の砂浜と漣に。


あ 、


と言ったのは、どちらだったのか。


彼の身体は宙にあった。

突然、重力が強く強く働きだした。


巨岩がそれを見ていた。



彼は涙した。



自分が死ぬ恐怖からではない。



とりとめもない、古えの巨岩達の言葉。

自分も他人も全てを赦すかのような。




彼には神々しかった。





暗い暗い灰色の砂浜の向こうに、薄い青がかかった海が見えた。



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色褪せた風景の夢オチ。色彩があまり無かった気がする。

何となく暗い話な割に、そこまで悲しさとか悲愴感は無いんですよね。あっさりしているというか。


崖から突き出した巨岩に口と目があって、そいつらに崖の向こうまで橋渡ししてもらうことになるんです。

ところが、この中のひとつの岩が誤って「彼」を落としてしまう。それだけ。

岩にとっちゃ人間なんて微小な存在だし、文字通り感想が「あ」で終わってるんです。

それを「彼」も自然に受け止められているんですね。


キリよく落ちる所で終わりにしましたが、もうちょい続きが。


落ちてる途中で崖に引っ掛かった彼は、しかし宙ぶらりんのまま。

もがいた挙句再び落ちて、今度こそ地面に到着。相当な高さがあったので死ぬのかと思いきや、彼は生きたまま立ち上がります。

自分が本当に無事なのか、それとも、もう頭がおかしくなって身体の異常も感じられないのか。


そんな思いを余所に、彼が立っていたのは生まれ故郷でした。

幻かと目を疑う彼の前に、懐かしい人物が現れます。



…っていう所で、起きました。(風呂で