手に手を引いて、小さな少女が2人、暗青色の空気の中を駆けていく。
あちこちから水気が迸り、植物の呼気や命そのものが大気に溶け込んだかのような、濃密な空気の漂う暗い中庭。天は覆われ、陽の光は無い。
耳に届く涼やかな水音が具現化しているのか、辺りはうっすらと青みがかって見えた。
緑の葉擦れの音を背に残しながら、双子の姉妹は駆けていく。
細い青銅で編まれたアーチを潜り、石畳を順々に踏み締め、更に奥へ。
視線の先に求めた人物の姿を認め、2人の胸は歓喜に高鳴る。
鍔の広い、真白な帽子を目深に被った女性が座っている。
お母さん、
双子が駆け寄り、左右から取り囲む。
女性の口元が綻ぶ。
幻影を振り払うように、少女は軽く首を振った。
母親が被っていた帽子のように白い、雪が降っていた。
人々が行き交う橋の向こう、白色と灰色に煙った街へと、彼女は歩き出した。
*****
鋭い爪と爪の隙間から、幼い家鴨の子が羽をばたつかせ、もがいている。
無慈悲に見下ろす猫は、その顔に残忍な笑みを浮かべていた。
押さえ付けられた幼鳥は、絶望に瞳を曇らせながらも、必死に親を、助けを求めていた。
少女の記憶の中の母が、少女に呼び掛ける。
幼い頃の古い記憶が、まるで現実のように呼び覚まされた。
仕方の無いことなのよ。
いい?決して、手を出してはいけないの。
私達が関わってはいけないことなのよ。
でも。
少女にはそれが出来なかった。少女は優し過ぎた。
全身の毛を逆立たせ、少女をひと睨みすると、猫は嗄れ声を上げて走り去った。
小さな小さな家鴨の子は、弱々しい声で親を呼び、傷付いた羽を引き摺りながら、それでも巣へ帰ろうとしていた。
そんな家鴨の前に、一人の少年が現れる。
少年は黒い鎌を持ち、唐突に、家鴨に襲い掛かった。
「何するの!やめて!」
少女が家鴨と少年の間に立つと、少年は何の感情も無い目で少女を見据え、短く言い放った。
「お前が悪い」
ぞっ、と少女は全身に寒気を感じた。
少年の告発に、自分の犯した罪に、芯から震え上がるようだった。
堪え切れずに、涙が頬を伝った。震える唇が謝罪の言葉を紡ぐ。
「……ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。でも、どうしても、見過ごせなかったの…!」
その場に膝をつき、頭を垂れ、許しを乞うた。
少年は闇色の鎌を振り上げる。
「その命、あるべき所に返せ」
一片の躊躇も無いその声と共に、鎌が振り下ろされた。
少女が下を向いたまま、涙で濡れた目を見開く。
背後で、か細い家鴨の声が、ぴたりと止んだ。
*****
連続夢オチ第2弾。
双子の姉妹てーと、(別次元の意味で)偉大なるミッチー1号と2号が出て来るんだが。(←常に末期
それに合わせてみると、明らかに後半は2号だね。多分橋渡ってるのが1号。あいつ究極的にドライだから。
少年は何なんだろうか。自分のイメージする所の死神なんだろうか。
ただ、中庭の雰囲気は綺麗だったなーと。