友人数人と教室へ滑り込んだ時には、自分達を除く全員が既に着席していた。

前の入り口から入ったものだから、一瞬、何事かと生徒全員の注目を集める。その突き刺さるような視線はひとまず無視して、バタバタと騒々しく自分の席についた。前から3番目、窓際の席。


座る直前―――ちらり、と後ろの席に座る人物を盗み見た途端、うげ、と内心呟いた。

恐らく生来の気質的に、何かと自分とは反りの合わない人物。よりによって何でこの人が居るかな、と自分の悲運を嘆く。

相変わらず、澄ました顔が憎らしいことで…。



んなこたぁどうでもいい。それよりもまず、試験である。

考えてみれば、後ろに誰が居ようと居まいと関係は無い。問題なのは、今、既に試験監督が問題用紙を配布しようとしているにも関わらず、自分の机の上は雑多乱雑、おまけに筆箱どころかシャーペンすら出していないことだ。


窓際なのをいいことに、机上にあった諸々を窓と机との間にあるスペースにそっくりそのまま押し出して、鞄から筆箱を引っ張り出し、相棒、シャーペン、消しゴムを並べる。

それを確認してから、試験監督は自分の列に用紙を配布した。


…って、誰かと思えばKK先生じゃないっすか。


KK先生は試験監督が楽しくて仕方ないらしい。笑っているのはいつものことだが、今日の笑みにはささやかな悪意、というか、悪戯心を感じる。


「ふふふ。君達、まあ、頑張りたまえ」


眼鏡の奥の双眸がキラリと光る。

そんなことを言われちゃ、勿論、嫌な予感しかしない訳で。



試験開始の合図の後、とりあえず問題を一通り眺めてみる。

教科は歴史(らしい)。植物生理学の教授だというのに何故歴史、と突っ込んではいけない。だって夢だし。

問題文を読んで、自分は顔を顰めた。


『ユダヤ人が滅亡し(※)、*****が起きて、歌が歌われた。何故この歌が生まれ、そして歌われたのか述べよ』

(※)ンな訳無いのは明白。夢なので色々とオカシイことになっているだけ


この史実が起きたことは知っている、しかし…

…マニアック過ぎだろ、この問題。完全に予想外だよ。

随分と嫌な所を突いてきて下さるじゃないですか、KK先生…


…と前方を窺った所で、ぶったまげた。大いにぶったまげた。

いつの間にか、試験監督が入れ替わってH先生(←自分の指導教授)になっていたからだ。

い、い、い、いつの間に?!!


予想外の問題とH先生の登場にかなりの動揺を覚えつつ、落ち着け、落ち着け俺、と念じながら用紙を捲った。H先生の手前、まさか白紙で出すなんて訳にはいかない。何でもいい、とりあえず何かを書かねば。



裏面は、『陰陽師』の一場面である(←ここで何故か教科が国語になっている)。

台本のように書かれており、登場人物と台詞が並べられている。

問題は、以下のようなものだった。


一人の式の女が、歌に合わせて舞う。

歌の歌詞がそこに書かれている。歌われている歌詞の意味を書け。


読んでいて、ははあ、と思った。この歌詞は全て、一字ずつズレているのだ。

これなら簡単そうだな、と先にこちらの問題に取り掛かる。


それはそうとして、表面の問題はどうするかな…と、回答を書きつつ、思考をそちらに向け始めた。



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こんな夢を試験当日の朝に見て御覧なさいよ。トラウマになりかねないから。

何故にKK先生が出てきたかは謎。ユダヤ人のくだりは(大幅に捏造してるけど)生命科学講座だし、陰陽師は最近熱かったし、H先生はまあ当然だとして。


最初の「うげ」の人は、中学時代のクラスメイト。教室は高校時のもので、先生は大学っていう、また時代ごった煮な夢でした。

にしても、影響されたもんが大分はっきりと出てきてるな。何と分かり易い夢だ。