オレンジ色の光が、群青の闇の中に煌々と輝いている。

夜空の彼方に、小さく白い月が出ていた。空を見るのは実に5日振りだ。


山深い森の中に突如として現れた、一軒の家。

なかなかどうして、事実としては受け入れ難い。sigiriは暫く歩を止め、呆然と立ち尽くしていた。

声は家の向こうから聞こえてくる。どうやら、家の裏側に出て来たらしい。そちらへ足を向ける前に、はたと気が付いて、頭の包帯を巻き直した。



「あれは?一番上の方で光ってる、でっかい星」

「あれは北王星。旅人はみんな、あれを目印にするんだって」

「じゃあ、その下の星は?右下の方にあるやつ」

「あの赤っぽい星?あれは…えっと、獅子ノ目星、だったかな。北の王に仕える獅子の目なんだよ」

「じゃあ、あの星は?あそこに4つ並んでる…」

「剣座」

「そうそう、その剣座の下にある、青い星」

「ええと、あれは…?、んんん…わかんない」


「amarniet。君の憶え方で言うと、羊水星かな。剣を腹に宿した女性の星だ」


助け舟を出してやると、座って空を眺めていた2人がくるりと同時に振り向いた。

真ん丸な目をぱちくりさせている。sigiriから見て右側の子供(星を教えていた子の方だ)はAlbino体だと察した。明かりの薄い中でも、その頭髪と肌の色が異常であることはすぐに判った。

怯えさせたかもしれない、とsigiriが弁解に口を開きかけた途端、Albino体の子供が声を上げた。


「そう、それだ!すごい、よく知ってるね!!」

「葉月より星を知ってるの?ねえ、もっと教えてよ!あれは?あっちの赤い星は?」

「あれだったら僕にもわかるよ、天道星。ねえお兄さん、あの南にある、大っきな白い星を教えて!僕、まだ教えてもらってないんだ」

「え、あ、ああ…あれはipesyutumn。南の門を護る金龍星だ」


予想外の反応に、今度はsigiriが目を白黒させる。小さな2人に腕を引かれて、あれは、あれは?と質問攻めに遭う羽目になった。

動揺はしたものの、嫌ではない。寧ろ、少し嬉しかった。

彼の特異な外見は、人に嫌われることは多々あれども、好かれることは少ない。こうしてすんなり受け入れられることなど、久しく体験していなかった。

幸い、星に関しては熟知している。sigiriが答えに窮することは無かった。


「西と東の端っこにひとつずつ、すごく目立つ星があるね」

「あれは……ん、んんんん」

「2人の古い神様の星さ。東の方はkueias、時星。西の方はyperiaes、命星。仲が悪いんで、お互いあんな離れた端っこの方に居るんだ」

「あ、そうだ…。む、難しいよぅ」

「でもさ、仲が悪いんなら、同じ空に出なければいいのにね?確かそういう星があったよね、葉月」

「うん」

「そう思うだろう?ところがな、この2人はすごく寂しがり屋なんだ。2人しか居ない世界だったから、話す相手も1人しかいない。仕方なく、一緒の空に昇ったんだとさ」

「え!?2人っきりなの?何で2人しかいないの?」

「さぁて。それは古文書に書いてあってな…」


2人は飽きず質問を繰り返し、sigiriはそれにひとつずつ答えていった。

Albino体の子供の方は、誰ぞから教わった星を全て、森の民が呼ぶ名で憶えていたようだ。一般人が知る星の名称にも興味を持ったようで、彼自身が憶えていた星の一般名を皆知りたがった。


子供の名前はそれぞれ三月、葉月(こちらがAlbino体だ)といった。「お兄さんのおなまえは?」と訊かれた時、一瞬夢を思い出したが、さして気に留めなかった。


―――それが、sigiriと2人との出会いだった。


*****


「…森が、2人の声を借りてsigiriに話し掛けたんだ」

「そうだ。後になって、葉月の母親に聞いた」


思えばあの時、俺はこの2人に助けられたんだな。

sigiriは写真を見ながら、そう呟いた。


「じゃあ、葉月と、その母親は…」

「森の民だった。母親は帝国の人間と結婚し、生まれたのが葉月だ。…彼は受けるべき森の恩恵の印を持ってはいなかった。だが、心から森に親しみ、そして森から溢れんばかりの愛情をその身に受けていた。それは俺にも感じ取れた」


緑青は片目が青い。双眸に緑の光を宿す“東の風の民”からすると、彼はその印を片っぽしか持っていないことになる。自分と葉月を重ねて、緑青はちくりと胸が痛んだ。

“北央の森の民”の印は確か、その瞳にしか現れない筈だ。もう一度、写真の中の葉月を見やる。


彼の両目は、どちらも鮮やかな赤色だった。


*****


「葉月、三月?いつまで外に居るの。そろそろ中へいらっしゃい」


玄関と思しき扉の向こうから、女性の声が聞こえた。

しまった、と思う暇も無く、sigiriが振り返ると同時に扉が開けられた音がした。

現れた女性と、ばっちり視線が合う。


「あら…?」


ぱちぱち、と目を瞬かせている。無理もない、子供2人の間に見知らぬ男が居たのでは。

sigiriは今度こそ弁解しようと思ったが、またもや遮られてしまった。


「お母さん!sigiri、すごいんだよ。お母さんよりも星を知ってるんだ!」

「うん、ホントにすごいんだよ。何でも答えてくれるの!僕のお父さんよりもの知りなんだ」


2人は自慢するように高い声を上げ、女性の元に駆け寄っていった。

女性は子供達の表情を交互に眺め、曖昧な笑みを浮かべる。困惑しているのは明らかだ。目に警戒の色が見える。


「え、ええっと…」

「突然現れたこと、失礼致しました。貴女方に危害を加えるようなことは決してございませんので、どうか御安心を。…旅の者ですが、どうやら迷ってしまったようで。一晩の宿を乞うようなことは致しません、もし宜しければ、道だけでも教えて頂けませんでしょうか」


両手を挙げて、こちらにその意思が無いことを伝える。やり過ぎと思われるかもしれないが、世界が荒れている物騒な世の中、一歩街を出ればこれが普通の対応である。

特に、sigiriの場合はその不気味な出立ちから、人々の恐怖と警戒心を誘う。

ところが、女性は益々首を傾げるばかりだった。こちらをじっと見つめてくる。

何かを探しているようだ。



*****


MAXキリの悪い所で終了したので、勢いで続きを書きます。

うおー!勉強が出来ねえ!!(お前の所為

何故にこういうタイミングで書きたくなるんだ。俺のバカ。


あ、星の名前はテケトーです。テケトーもイイ所。

今は勢いで書いてるので、誤字脱字が目立つかもしれませんが、ラフということでひとつ。