辺りは閑かだった。この閑けさが好きなのだ。
周囲に垂直に立ち並ぶ針葉樹林の深い緑が、自分の精神を酷く落ち着けていた。細波すら立たない、鏡のような水面が自分の心の奥深く、隅々まで広がっていた。水の色は深緑と群青が混ざり合う直前の、お互いの境界が少しずつ溶け合い始めた頃のような、何とも表現し難い色合いだった。
窓が開いているのだろうか。温度の低い空気が肺に心地良い。
いや、窓すら存在しなかった。周囲には深々とした森があるだけだ。
椅子の背凭れにゆっくりと体重を預けた。キィ、と小さく抵抗の声が上がる。
目を閉じ、足を組んで、その膝の上で手を組んだ。
そのまま眠ろうと思っていたのに、心の安寧を崩す幼稚な存在が背後に居るのに気が付いてしまった。
振り返らないまま、不機嫌に眉根を寄せる。
「…また壊したのか?」
「違うよ。壊れちゃったんだ」
同じだ、とは言わないものの、好い加減呆れた顔で振り返れば、相手の少年は口をへの字に曲げて立っていた。
少年の足元に人が倒れている。いや、人ではない。ヒューマノイドだ。
(…『また』、病原体にやられたのか)
私はそれを見て、目を細めた。喜びではない、不快にだ。
「これで何体目だと思ってる」
「だってすぐに壊れちゃうんだもん。新しいの頂戴」
少年は少しも悪びれた風も無く、平然と言った。
相変わらずの横柄な態度に、私の心はさわさわと揺れ始める。気持ちが悪い。
私はいつだって平静で居たいのだ。水面を鏡のようにしていたい。感覚も感情も全て、その中に閉じ込めて。
「帰れ。お前にくれてやる人形はもう居ない」
気が付けば、自分の足元に数体の人形が倒れている。
その場に跪いて、死んだそれらの頭を優しく撫でた。皆死んでしまった。あの少年の手に渡ってから、次々と感染して壊れてしまったのだ。
心の平穏が戻って来たことに、私は安堵する。
人形の頭を抱き寄せて、私はもう一度、静かに目を瞑った。
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ロボットが出て来た記念の夢オチup。
人形、等身大の癖にバービーちゃん人形みたいな皮膚の材質で、身体は中性的だった。(と思う)
目は無くて、漫画版・攻殻機動隊のサイボーグ一丁出来上がりの最後の仕上げ前辺りな感じ。誰が分かるんだ誰が。
あと、火事をヨーグルトで消す夢も見ました。
夢の中では母さんとその場に居たんですが、自分が水をかけていて、母さんが消火器を持ち出そうとしたので「その消火器古いから、使った瞬間に爆発して頭吹っ飛ばないように気を付けてね」と言ったら、消火器使うのをやめて冷蔵庫から大量のカスピ海ヨーグルト(作りかけ)を持って来た。
そして消火成功。何かが大いにオカシイ(笑
映画版・20世紀少年みたいな雰囲気の怖い夢も見ました。久し振りに無理矢理起きた。