「riga?ねえねえねえ元気?僕元気だよ!えー?…うん、いい子にしてるよ!」

masterだけど、という<ORANGE>の声に吹っ飛ぶ勢いで飛んで行った<INDIGO>は、受話器を掴むなり嬉々として話し始めた。体当たりされて受話器を奪われる形になった<ORANGE>は、大袈裟に肩を竦めてみせてからこちらへ歩いてきた。

「予想通り♪流石は鉄壁フルバック様々だな」
「…最近益々力つけてきたな、あいつ」
「成長期だろ?」
「まさか」

<GREEN>の軽い冗談をこれまた軽く受け流し、<ORANGE>は受話器に向かって一生懸命に話し掛けている<INDIGO>を見やった。…彼のあんな笑顔を見るのは久し振りのような気がする。
それだけでも良かったか、と<ORANGE>はそっと微笑んだ。

「ホントだよ、greenにもいい子だって言われたもん!え?そう、おんなじ隊の人」

自分が話題に上ったらしい<GREEN>はぺろ、と舌を出した。

「やれやれ。御免蒙りたいね、master・rigaへの紹介なんて」
「御愁傷様。ブラックリストに載ったな」
「精々夜道には気を付けるよ」

両手を挙げた<GREEN>を一笑に付すと、<ORANGE>はちらりと周囲を窺った。

「隊長とcyanは?」
「隊長殿はお前さんと替わった後にどろん。cyanは近くに来てる連軍の部隊に相方が居るとかで、そっち行った」
「何だ、近況報告と懐かしの再会タイムか?」
「いーんじゃないの、偶にはこういうゆとりもさ。そういやお前さんもさっき連絡来てたな、tata?」

振ると、横で姿勢良く立っていた<VIOLET>は顔を綻ばせた。

「はい、Ielyの部隊長から労いの御言葉を頂きました」
「北の方は大丈夫かい?特に話を聞かないけど」
「ええ、主立った戦闘も無いようで。何よりです」
「そりゃ何より」

暫く他愛の無い話をしてから、<ORANGE>と<VIOLET>が行ってしまった後で<GREEN>は横の<YELLOW>に話し掛けた。

「お前さんは?」
「…何が」

<GREEN>はちらりと隣に目をやった。<YELLOW>は椅子に体育座りという格好で、正面を見据えたままだ。
その視線の先に、<INDIGO>の笑顔がある。それを意図しているのかいないのかは定かでない(恐らく、単に正面を向いていたらその視界に<INDIGO>が入って来ただけだと思うが)。
<GREEN>も視線を前に戻した。

「誰か居んだろ、会いたい奴とか話したい奴が」
「別に」
「あっそー。クソ淋しい奴。笑ってやるよ」
「…そう言うお前はどうなんだ」
「俺?俺は居るもん。Ionが待ってるもんねー」
「会いに来ないのか?連絡も無いんだろ?は、相手にされてねーんじゃん」

<YELLOW>が<GREEN>を睨み上げると、<GREEN>は鼻で笑った。

「何ソレ、仕返しのつもり?可愛いコトするね、孤高の<YELLOW>ともあろう御方が」
「……お前、2番目に殺してやりたいくらいムカつくな」
「そりゃ光栄だね。栄えある1番目はどちら様?」
「俺のオリジナル」

暫く忘れていたのに、その顔を思い出しただけで腸が煮えくり返る気分だった。
コイツの所為だ、と<YELLOW>は内心八つ当たりした。

「ひょっとして、それvermillion?」
「その名前を口に出すな。…何で知ってる」
「お前さんを見た時から気になっちゃいたけど。国際第九研究所の誇る最高のmasterdollだろ、知らない奴はそう居ないって……って、お帰り、リーダー」

視界が遮られたのは<YELLOW>の方だ。見上げると、<RED>がいつもの無表情でこちらを見下ろしていた。
<RED>は無言で<YELLOW>に電子ボードを差し出した。

「…何だよ?」

<YELLOW>は訝しげにボードの内容に目を走らせていたが、内容を理解したのか急に真剣な目つきで文字列を追い始め、2ページ目に移る所で一度<RED>を見上げてから、彼の脇をすり抜けて足早に去って行った。
目の上に手を置いてその背を見送った<GREEN>は、意味ありげににやりと笑う。

「彼にしちゃ中々イイ反応だね。何渡したの?リーダー」
「九研周辺の情報を把握している限り。それから…最後にmaster・vermillionからの伝言」
「へえ、かのmaster・vermillionか。情報も彼から?随分とアナログだねえ、ボード使うなんてさ」
「<YELLOW>に直接アクセスすると拒否されるらしい」
「ああ、そんなこと言ってたなぁ。ま、harvestにも心配してくれる奴はちゃんと居るって訳だ。んー、良かったねー」

<GREEN>が大きく伸びをすると、<RED>は少しも表情を変えずに声を出した。

「お前は?」
「うわッッ吃驚した!!話し掛けるならモーションもかけて下さいよ、隊長殿。特に貴方に関しては」
「……」
「冗談ですって。俺ですか?誰も居ませんよ、心配してくれる人なんて」
「…Ionという少女が居ると聞いた気がしたが」
「彼女は俺のこと認識してませんよ。喋れないから連絡も来ないし」

<GREEN>は後ろの柵に寄り掛かると、ゆったりと空を仰いだ。
暫し沈黙する2人。

「クソ淋しい奴ですよね、俺のこと憶えてもいない人をずっと護り続けるなんて」
「それが淋しいことなのか、俺の経験では判別不可だ」
「有難う御座います、隊長殿」

首だけ起こしてにっこり笑うと、<GREEN>は勢い良く柵を押して<RED>の傍に立った。
彼の帽子の先についた毛糸の飾り玉が大きく揺れた。妙にゆったりとした動きのそれを、<RED>は無意識に追っていた。
無意識?

「これから会議なんでしょ?俺も一緒に出てあげよっか?」

不図湧き出た疑問は、<GREEN>の声に掻き消されていた。
クソ淋しいとか言っておいて、彼も満足そうな顔をしているではないか、という感想だけ持った。

「必要無い」


-----

gossipというタイトルの真価が判るようなこの内容。
<GREEN>が居ると会話3割増。寧ろ会話オンリーでも奴なら1話イケそうな気がする。
懐かしのとか言ってるけど、大して時間は経ってない。この時点で1ヵ月位かな?その辺適当。