ブラックアウトしていたのはほんの数分だったようだ。

地面に降ろされた衝撃を感知して、<BLUE>は「意識」を回復した。途端、警告表示の嵐。

左腕の神経系が断絶されている。やっちゃったな、と<BLUE>は舌を出した。


「起きたか」

「あ、はい」


振り向くと、<YELLOW>が立て膝で座っていた。<BLUE>には目もくれず、素早く視線を周囲に走らせている。

遠くの方で銃声が聞こえた。位置を確認すると、元居た場所から500m近く離れていた。

<YELLOW>が昏倒した<BLUE>を連れて戦線を離脱したのだろう。


「ありがとうございます、助けて頂いて」

「別に」


<YELLOW>の返事は素っ気無かった。まあ、この反応にも大分慣れたものだ。

と言うより、これが本来の人形の反応なのだろうな、と<BLUE>は考えていた。自分には色々と余計な機能が付加されてしまったらしい。まるで人間じゃないか。

暫く周囲を探ってから、<YELLOW>は肩を竦めた。


「…少し様子を見るか」

「分かりました」

「腕、逝ったろ?」

「え?あ、はい。左腕ですけど…」


<YELLOW>が舌打ちして不機嫌な顔を作ったので、<BLUE>は恐縮して謝った。


「す、すみません。こんなことになって」

「お前じゃねーよ。上の連中」


はあ、と盛大に溜息を吐くと、<YELLOW>は頬杖をついて口をへの字に結んだ。

彼の目の色は左右で違う(右がgold、左がcrimsonだ)。Carol共和国の大砂漠地帯に暮らす遊牧民をモデルにしたデザインだろう、と<GREEN>が話していたのを思い出した。


「セレクトをそもそも間違えてんだよ。俺達は個々の戦闘能力が高いんだから、的にするなら司令塔クラスの奴だろ。雑魚の掃討に必要なのは数だってのに、こっちの絶対数が少な過ぎる。今回の命令を出した奴がよっぽど間抜けか…まあ、ワザとだな」


そういえば、今回の作戦には珍しく<RED>が明らかな難色を示していた。

彼に表情があることなど滅多に無かったから、<BLUE>も<VIOLET>も(別の意味で)驚いたものだ。

わざと、という表現に、<BLUE>はまた<GREEN>の言葉を思い出した。勿論、そのことを口には出さず、「そうですね」と相槌を打っただけだったが。

それよりも、冷静に物事を見ている<YELLOW>に対して<BLUE>は素直に感心した。


「ところで、連絡はつきました?」

「ああ。向こうは全員無事だ」

「本当ですか?良かったぁ…」

「但し、迎えは来ない。自力で帰って来い、だと。まあ当然だけどな」

「じゃあ、なるべく早く戻った方が」


いいですね、と言い掛けた所で、<YELLOW>が動いた。

直後に銃声。撃ったのは<YELLOW>だ。ほぼ同時に、無機的な炸裂音が微かに聞こえた。


「ナイスショット、俺」

「…バレました?距離はかなりあったと思いますけど」

「いや、出るタイミングを窺ってただけ。丁度イイ的が居たんで潰した。これでちっとは相手の動きが読めるだろ」

「<YELLOW>さんて、自分から攻めていくタイプですよね」

「九研の連中は皆そう。お前は?」

「僕は守りが専門なんでちょっと…。というか、遠距離も得意なんです?」

「常戦闘区域を舐めんなよ。何でも出来なきゃ死ぬだけだ」


<YELLOW>は不敵に笑った。

彼が笑う所を見たのはこれが初めてかも知れない、と<BLUE>は少しどきりとした。


「行くぞ。動けるか?」

「脚は無事ですし、右腕の簡易障壁も生きてるんで当面は大丈夫です」

「戻るついでに、外回りから潰してった方が後が楽だろーな。おい策士、策出せ」

「僕、策士ですか??」

「その顔は誰がどー見ても策士だろ、48時間ヘラヘラしやがって。出さなきゃ真っ向から押し切るだけだ」


24時間ではなく48時間と言う辺り、相当強調しているようだ。

そんなにヘラヘラした表情かな、と<BLUE>は首を傾げた。


「…なら、囮作戦で行きますか。僕が上手く引きつけますから、そこをズドン、とやっちゃって下さい」

「上手く引きつける、ってな…自信はあんのか?」

「よくやる手なんで、慣れてるんですよ。僕の普段の相方は遠距離担当なんで」

「調整は俺の腕次第、って訳かい。は、受けて立とうじゃねえか。…よし、採る」


こういう強気な辺り、ちょっと相方に似てるかな、と<BLUE>は小さく笑った。


「右から行け。初期配置から見て、多分あっちのが層が薄い。崩し易い筈だ」

「了解。頼りにしてますよ、<YELLOW>さん」

「たりめーだろ。…さっさと行け。バックは任せろ」

「お願いします」


<BLUE>は一度だけ振り返ってから、くるりと踵を返して駆け出した。どんどん速度を上げていく。

いつも相方に寄せているのと同じ、厚みのある信頼感が背にしっかりと感じられた。



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出来るだけシンプルにいこうとしたら、本当に短くなったっつーオチ。

実際の戦術とか、勉強した訳じゃないし訓練受けた訳でもないんで適当。

そういう勉強って…出来るのかな。自主勉か?背景から得難い知識もあるよなあ。


因みに、作戦中はお互いカラーで呼び合う決まり。にも関わらず「さん」付けしてる<BLUE>はバカ。