「リーダーは?」
「義勇軍との合同作戦会議に出てるみたいですよ」
「はァ、今度は“赫”も一緒か…やり難いこと此の上無いね」
「ねえ、『アカ』ってなーに?」
積み上げられたダンボール箱の上に腰掛けて足をぶらぶらさせていた<INDIGO>は、首をかくんと45度傾げた。
その姿を見上げて、<GREEN>は苦笑する。
「コラ、ンな高い所に登ってると危ないぞ」
「平気だもん。ねえ、アカってなーに?」
「素直に降りてきたら教えてやるよ」
<INDIGO>は頬を膨らませたが、両手で反動をつけると、身軽な動作でひらりと降りてきた。
既に実戦でも目の当たりにしたが、彼の身体能力は機械のそれにも引けを取らない。
「いい子だ」と<GREEN>が<INDIGO>の頭を撫でると、彼はくすぐったそうに笑った。
「“赫”ってのは義勇軍のこった。義勇軍、てのは民間の警備隊に毛が生えたようなもん。有志を募ってmob共を退治しようっていうお偉い志を持ったヒト達のことさ」
「ふーん…何で『アカ』なの?」
「人間の血が赤いのを機械との区別にしてるからさ。ま、実際血が赤い人形も居るんだけどな」
「僕の血も赤いよ」
「そかそか、じゃあお前は20歳になったら義勇軍入れるぞー」
それは無理です、とは敢えて言わなかった。
<BLUE>が視線を送ると、<GREEN>はそっと人差し指を口元に当てて笑った。
<INDIGO>は何やら嬉しそうだ。それで良いのではないか、と<BLUE>は考えた。
最初の実戦から3日経った。
戦争には今回が初参加だという<INDIGO>には、主に精神的な負担が大きかったようだ。
何より、(<ORANGE>曰く)従うべき命令がmaster・rigaのものでないことにストレスを感じたらしい。
ストレスが直接的な戦闘に関する内容でない辺り、若干疑問を覚えるが…。
「じゃあ、僕、この書類出して来ますね」
「あ、俺もこれ持ってく」
「僕も行く!」
ぴょこぴょこと後ろに付いて来る<INDIGO>を、<GREEN>がいつもの軽い調子で二言三言窘める。そのやり取りがすっかり定着してしまって、まるで<GREEN>は保護者のような雰囲気だった。
一番近しい筈の<RED>や<ORANGE>があの様子だから、まあ無理も無い。
「この先も遊撃部隊として動いていくんでしょうかね」
「だろうね。隊の性格からしてそれが一番合ってる」
「ねえねえ、『ゆうげきぶたい』ってなーに?」
<GREEN>が疑問に答えてくれることを覚えたらしい<INDIGO>は、すぐにこうやって質問するようになった。
それで判ったのだが、<GREEN>は相当の博識である。<BLUE>が知らないようなことも彼はすらすらと答えてみせた。
「んー、簡単に言えば助っ人みたいなもんかな。味方が困ってりゃ助けに行くし、味方が有利になるように動いたりする。別に用が無ければ手前で勝手にドンパチやらかすことも出来る。戦況によって仕事が大分変わるけど、自由度は高い部隊だよ」
「へー。僕等はそれなの?」
「そういうこと。お次は“赫”の助っ人にでも回されるのかね」
「アカって、義勇軍?」
「そう、よく出来ました♪」
微笑ましい光景だと思う。<GREEN>は単にからかっているのかどうか分からないが、少なくとも<INDIGO>を喜ばせようと考えているようだ。
「あ、marioだ!!」
少し開けた場所へ出た所で、目立つ長身の<ORANGE>を見付けた<INDIGO>は一目散にそちらへ駆けて行った(かなり足は速い)。後ろから追突される形になった<ORANGE>は、バランスを崩して前方に派手に倒れた。
<INDIGO>は楽しそうにけらけら笑っている。
「おかしいですよね」
「そうだな」
その場に立ち止まって暫く様子を眺めていた<BLUE>と<GREEN>は、顔を見合わせてから再び歩き出した。
「やっぱり、そう思いますか?」
「まあね。非公式の部隊って所からして尋常な居場所じゃないとは思ったけど。実行力重視の実動部隊にしては、隊長は非戦闘型だったり生身の戦闘員が入ってたりする。本当に妙な隊だ」
「ええ、僕も変だとは思ってたんですけど。こうも普通に戦争に参加していると…感覚狂いますね」
「あのさ、変なこと訊くけど。何かやらかした憶えはあるかい、cyan?」
「えっ?」
<BLUE>が振り向くと、<GREEN>は優しく微笑んでいた。
その時、<BLUE>は自分の考えに確信を持った。
「多分、そういうことなんだろうね。リーダー含め、三研の連中は全員そう見られてると考えて良いと思うよ。九研から来たっていうharvestも同じだろう。俺に至っては、正式な登録もされてないhumanoidだ」
「そう、ですね」
「ただ、君とtataには特に問題は見当たらない。恐らく、この隊を隊として成立させる為に必要だったんだろうね」
「それは少なくとも、僕に関しては違いますよ」
そう言って、<BLUE>はいつものように笑顔を見せた。
「僕はある人のコピィなんです。外見や性格は全然違いますけど、基礎的な部分は全く同じです。僕は試作機ですけど、こうして完成している以上、僕はいくらでも造れますからね」
<GREEN>の表情が一瞬固まったが、彼はすぐに「そ、か」と元の表情を取り戻した。
「君のオリジナルって、どんな人なの?」
「僕のパートナーなんですけど、何と言うか…ちょっと粗野な所があって、でも頼れる人ですよ」
「へえ、粗野か。確かにcyanのイメージとは懸け離れてるなあ」
「greenさんの仰るIonさんは、どんな人なんですか?」
<BLUE>はここで地雷を踏んだ。→<GREEN>は嬉々として語り出した。
「Ion?そりゃもう、可愛いのなんのって。髪の毛はサラサラだし、顔立ちは端整だし、か弱くて儚くて、命令じゃなくても思わず守ってやりたくなるような…(以下略」
それから書類の提出先に行く迄の間、<GREEN>は彼女の話をしっ放しだった(<BLUE>は真面目に聞いていた)。
自慢話が漸く終わり、<BLUE>が呼び出されたので別れる所で、<GREEN>は言った。
「winkerは、Ionが小さかった頃によく似てる。子供って、あんな風に何でも知りたがるんだ」
「そうなんですか?」
「うん。あれは何、これは何、って。懐かしいな」
「…それで、winkerさんのことを気に掛けてるんですか?」
「まあね。marioちゃんの話を聞く限り、飼い主さんが居ないってだけで相当寂しいみたいだしさ」
リーダーとかmarioは厳し過ぎるよな、と<GREEN>は笑った。
そうですね、と<BLUE>も苦笑いしつつ頷く。
「どんな理由であれ、俺は君等と会えて良かったと思ってるよ」
「僕もです」
「この先も宜しく、cyan」
「こちらこそ宜しくお願いします、greenさん」
2人は握手して、そして別れた。
悪い予感は次々に的中したけど、良いことがあっただけで幸せなんじゃないかな、と<BLUE>は思った。
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色んな要素を詰め込み過ぎて、自分でもカオスな一話に。
でも満足。GREENのアホな所書けて満足。(←自己満の極み
理由ってのはアレです。要は用無し(ギャグではない・笑)の奴等の寄せ集めって意味です。