「こっち、こっち!始まるよ」
彼女の手招きに頷いてそちらへ向かうと、眼下には一面に氷の舞台が広がっていた。
ぐるりを取り囲む壁には天井近くまで装飾が施され、煌びやかにライトアップされている。
小さな彼女が陣取った席は、下の様子を眺めるには申し分無い絶好の場所だった。
「いい席だ」
そこにあった椅子に腰掛けると、何やら放送が入ってから、照明がゆっくりと落とされた。
どうやら始まるらしい。下のフロアの入り口近くに注目していると、スポットライトがぱっと当てられた。
仮面を被った黒いマントの紳士が一人、御立ち台に立っている。どうやら主催者のようだ。
彼は優雅に一礼すると、まず観客に向かって挨拶した。
仮面の所為だろうか、ミステリアスな印象だった。そこがまたいい。この雰囲気にぴったりだ。
まるで歌うような、滑らかな声の響き。その音は闇に溶け込んで、この広い会場の隅々にまで浸透していくようだった。
短い挨拶が終わって彼が再び一礼すると、歓声と拍手が湧き起こった。
やがて、何処からともなく音楽が流れ出す。これまた雰囲気にぴったりの曲だ。
その時、視界を何かが横切った。
瞬きをして、首をきょろきょろと動かしてみる。また視界の隅で何かが動いた。
スポットライトも消えて真っ暗なのに、一体何が見えるのだろう?
今度は目の前を通り過ぎた。一瞬視界がぼんやりと白くなった。
消えた方向に首を巡らすが、何も見えない。
何だろうと不思議に思っていると、例の紳士の声が闇に紛れて聞こえてきた。
「このような時間には、幽霊達が姿を見せます。御心配なさらず、彼等は唯遊んでいるのです」
すると、まるでその声に呼応するかのように、会場の所々に白い影が現れた。
空を飛んでいるもの、客に紛れて席に腰掛けているもの。姿形も実に様々だ。
「但し、声を掛けられてもお応えになってはいけません。相手を見つけると、彼等は底抜けに喜びますからね」
所々で観客がざわついているが、大した騒ぎにはならなかった。
寧ろエンターテイメントとして楽しんでいるようだ。
「では、最後までお楽しみ頂けますよう。今宵のショーは第3部までとなります故…」
照明が明るくなり、氷上に役者が現れる。割れんばかりの拍手が湧いた。
音楽に合わせて華麗な舞いが次々と披露される。フロアの中心には、何時の間にかオーケストラもいた。
天井には、水色の人影が宙を舞っている。
どれをとっても、この世のものとは思えない美しさだった。
下で展開されている夢のような光景に息を飲んでいると、とんとん、と肩を叩くものがあった。
振り返ってみると、そこに一体の骸骨が立っていた。思わずぎょっとする。
骸骨は笑っているのか口を開いて、肩を叩いた手を軽く挙げていた。
舞踏会の美しさに見惚れていた所為か、先程の忠告をすっかり忘れて自分は「どうも」と軽く会釈していた。
すると、骸骨は見るからに喜んだようだった。口の骨をカタカタ鳴らして、全身で喜びを表現しているかのようだ。
しまった、と思ったがもう遅い。骸骨は嬉々として何やら喋り出し、身振り手振りで返答を求めてきた。
とりあえず無視してみるが、一向に離れる様子は無い。
まいったな…とどうするか思案していると、近くに居た老人がこちらへやってきた。
「返事をされたんですな?だから言っとったでしょう。奴等、話し相手が欲しくて堪らんのですよ」
その老人は呆れた様子で苦笑すると、骸骨に向かって小さく呟いた。
「meth...aemeth」
すると、骸骨はその場で白い霧となり、消えてしまった。
ぽかんとしていると、老人は微笑んで立ち去った。
一体何だったのだろう。あの骸骨は何処へ消えたのか?あの老人は何者なのか。よく聞き取れなかったが、あの老人が言った言葉は幽霊を消滅させる力を持っていたのだろうか?
色々な疑念がアテもなく脳内をぐるぐると巡ったが、「見て見て!」という小さな彼女の声に(というか袖を引っ張られるという不可抗力もあったが)振り返って再び舞台に集中した。
途端、目に飛び込んできたのは煌く星々の眩しい光だった。
星はオーケストラの指揮者の掌から溢れ出し、彼の前に立つ役者の頭上に降り注いだ。花形への祝福なのだろう。役者の女性は信じられない、といった様子で感激を露にしている。
どういった仕組みなのだろう、と益々頭を捻った。
しかし理屈を考える前に、心底興奮している自分が居る。
今は暫しこの素晴らしい幻想世界に陶酔していよう、と椅子に座り直した。
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ずっっと前に書いた夢オチ『契約』の続きに当たるのがコレ。ジズ氏登場回(笑)。漸く書き終わった。
何で『契約』からこんな話になったのか、ざっくばらんに流れを説明すると
『契約』の少女2人ととりあえず自宅を出る→いきなり不良をフルボッコする→道を歩いていたら路駐のロードスター(青)に松井秀喜が乗っていていきなりマシンガンを乱射してくる→とりあず逃げる→→いつの間にかジズニーランドに→少女の1人がトイレに行きたいと言うのでトイレに並ぶ→もう1人の少女が何故か舞台に出るという→それを観に行くことに
→→結果:会場で席を探すというシチュエーションに。
途中色々と意味不明なのは気にしない。松井選手が出て来たのには驚いたが。
という訳で、今回のお話で一緒に居る小さな女の子はトイレ行きてーとほざいた子。指揮者から星の贈り物を頂いてた女の子はもう片方の少女だったりする訳ですよ。
で、自分は何故か途中から性別が変わってるっていうね。(そこか
そして何故にジズ氏の株が上がってるのかは謎。
別にジズ氏に入れ込んでた訳じゃないんだけどなあ。自分はスマ氏一筋だもんなあ。
寧ろスマ氏出て来て欲しいよ。ラムと一緒に出て来たらそのまま永遠の眠りに就きたい。