暫くして、その映像は終わった。部屋が明るくなり、皆が小レポートに取り掛かる。
1人の女学生がすぐに立ち上がり、澄ました顔で講師に紙を提出すると、そのまま教室を出て行った。講師は訝しげな表情を見せるが、何も言わずにレポートを受け取った。
(絶対、何も書いてないだろ)
まあ、知ったこっちゃない。
教室を出て行く女学生をちらりと横目で盗み見てから、自分もレポートに取り掛かった。
さて、どう書こうか…。いつも最初が悩む所だ。
書き始めてしまえば、後は自然と続きが出てくる。そういうことに関しては得意な方だった。
左手で頬杖をつき、右手で相棒をくるくると弄ぶ。
相棒というのは、自分のシャーペンだ。
暫く弄んでから、ことり、と机に相棒を置く。
イメージ。
レポート用紙に黒い線が引かれている。
その上に文字列が書かれていくイメージ。
何を書こうか…。
「書けないの?」
声を掛けられて顔を上げると、講師が横に立っていた。
「いえ、別に。考えてるだけです」
「貸してみなさい、こんな風にすればいいんだよ」
そう言うと、講師は机の上の相棒をひょいと手に取った。
それだけで殺気立ったが、相手が目上である以上、強引に取り返すことも出来ない。
講師は自分のレポート用紙に何やら書こうとしたが、一度紙にペン先を置いた後、眉を寄せて相棒をまじまじと眺めた。
「何だい、これ。書き難いな…」
講師は小さな板状の鉄鑢を取り出すと、徐に相棒のペン先にある銀色の部分を削り始めた。
ごり、と音を立てて相棒が削られていく。
瞬時に、脳味噌が沸騰した。
「ッアンタ、何やってる!!?」
「は?」
講師に飛び掛かる勢いで立ち上がると、肩を掴んで相棒を遮二無二奪い取った。
無残に削られた相棒の身体が、指先に異質な感触を残した。
角。直線。硬い、粗く尖った削面。指先に纏わり付く金属の粉。
ああ、とても綺麗な曲線だったのに。
色褪せても滑らかな表面だけは変わらなくて、心地良い手触りが大好きだったのに。
相手が講師であることも構わずに、周囲の目線すら無視して自分は怒鳴り散らした。
「何てことしてくれたんだ、あんた!!」
「な、何を怒ってるんだよ。たかがシャーペンの1本くらいで」
「たかがシャーペンなら、他人のものでも壊していいってのか!!」
相棒をぎゅうと握り締めて、椅子にどすんと腰掛けた。
怒りで身体が戦慄いているのがわかる。
「何なんだよ、あんた…」
たかが、だと?たかがシャーペンだと言いやがった。
何なら、あんたの一番大切なものを持って来い。
人間だろうが何だろうが、ずたずたにぶち壊してやる。
講師は気まずそうに2、3歩その場で足踏みすると、教室を出て行った。
暫く呼吸を整えてから、自分もさっさと荷物をまとめて教室を出た。
涙で視界が霞む。
右手に相棒を握り締めて、曲がりくねった廊下をずんずんと歩いて行った。
自分のクラスまで戻ると、友人達が思い思いのことをして遊んでいた。
明るい雰囲気。
いつものこと。日常。安心出来る場所。
ひとつ、大きく息を吐いた。
「お疲れ~。どしたの?早いじゃん」
「、何でもない。お疲れ」
そこで漸く、にっこりと笑うことが出来た。
泣き笑いになってなければいい、と思いつつ。
*****
目が覚めた瞬間、爽やかな心地良さ。何というストレス解消術!
何が最高って、講師に面と向かって怒鳴り散らせたことですよ。夢だけど。(←タチ悪ぃなオイ
この夢に出て来た講師、月曜にとってた教職のセンセだったんですが。前にも書いたけど、この人嫌いなんですよ。正直に言うけど、嫌い。自分は結構リアルでも好き嫌いはっきり言いますよ。
だから、つまり嫌いと言わなければ嫌いでは無い訳です。
そんなことはどうでもいいとして。
いやー、すっきりしたなあ…。目が覚めた時の開放感と言ったら。
ただ、相棒をダシに使ったのは自分でもどうなのよ。
相棒を削られた瞬間は、もう発狂してましたね。目がイッてたと思います。
…夢の中なんだから、そのまま殴るくらいしても良かったのに(ぼそ