『シケた慰め合いは終わったか?』


部屋へ戻ると、useがにやにやしながら待っていた。机の上に腰掛け、椅子の上に足を乗せている。

彼の手にかかればそういった動作も造作無く処理出来る。毎度感心するというか、最早呆れに近い。


「…言い過ぎだ、use」

『俺は人間やない。あいつに同情する義務もあらへん』

「お前だって、rechtが死んだ時は悲しんだ」

『当たり前や。けど、疑いはせえへんかった』

「それこそ当然だ。“目の前で”死んだんだからな。あいつだって、死体を持ってくれば否が応でも認める」

『は。死体が残っとるかどうか、何なら調べるか?』


鼻先で笑うようなその態度に、sigiriがuseをきっと睨み付けると、useは口を斜めにした。

どうやら、彼は予想以上に気分を損ねているらしい。緑青の反応が余程癪に障ったのだろう。プライドを傷付けられた、と言っても良いかも知れない。


「言い過ぎだ、と言った筈だ。use、そういう言い方は止せ」

『却下。お前にならともかく、あいつに遠慮するつもりはあらへん』

「遠慮なんてしなくていい。ただ、緑青の気持ちも少しは考えてやれと言ってるんだ」

『同じことやろが。どっちにせよ、俺は事実を言ったまでや』


useは言い捨てた。sigiriは肩を竦め、やれやれと首を振った。

普段は気の良い彼がこんな一面を見せるなんて、滅多に無いことだ。

それだけ彼は怒っているのだ。それはそうだろう。

最早、情報媒体としての性格しか持ち合わせない彼の存在から信頼を失ったら、後には何が残るというのか?


「…悪かった。お前と言い争うつもりは無いよ、use」

『ええよ。俺かてお前とはこれ以上喧嘩しとうない。……さァて、この話はこれっきりや。何を訊きたいん?そっちのが本題やろ?』

「ああ」


やっぱりuseの性格は嫌いでない、とsigiriは再認識する。

彼は素早く思考を切り替えた。


「さっきの話、もう少し詳しく聞かせてくれ。状況を知りたい」

『悲惨やで?』

「構わない」


はいはい、とuseは苦笑した。


『“赫”の方はさっき話した38番部隊を含めて、ここ3日間で大小合わせて6部隊が全滅ないしほぼ全滅に近い打撃を受けとるな。それ以外は、小被害が数知れず。国軍の方は、Ielyの他に帝国と王国の一部で戦闘になった地域があるが、コッチの被害は少ない。共和国と連邦に関しては、今の所音沙汰無しや』

「全滅した6部隊の内訳は?」

『番号の若い順に、4・12・38・65・88・117』


この数字には、流石にsigiriもぎょっとした。


「精鋭揃いじゃないか…!38はともかく、4と12もやられてるのか?!」

『トップが死んだのが、その3隊や。4と85と117は文字通り、生存者ゼロの完璧な全滅。あそこは少数部隊やからな。38も同じようなもんや。…ま、傍目からすりゃな』

「?」

『1人だけ、“行方不明”扱いになっとる奴が居る』


人差し指を立てて、useはにやりと笑った。

成る程、とsigiriは納得して苦笑した。“行方不明”1人を除き全員死亡となれば、その残り1人も絶望と思われるのが自然だろう。果たして、時間的なズレに気付く者が居るだろうか。

つまりは、緑青のことである。


「…迎えに来る者も居なくなったか」


useは何も言わなかった。無駄に足をぶらぶらさせていた。

全く意味のある行為とは思えなかったが、それだけに彼が本当にそこに居るのだと錯覚させられる。

それが彼の狙いなのだ。だから、彼は惜し気もなく回線を無駄に使う。


「国軍の方は?いくら他の被害が少なかったとは言え、Ielyが陥落したとなれば5大国が黙ってないだろう。対策は既に講じられてるのか?連軍再編の話も持ち上がって来ただろう?」

『もう命令は出よった』


useがそこで一旦切ると、多少驚いたのか、それともその先を促す意味でか、今度はsigiriが黙った。

前者の反応を期待しつつ、後者の希望に応えてuseは続ける。


『ようやっと、まっとうな戦争開始や』

「…再開、の間違いだろう。何処から誰が呼ばれた?」

『二研から赤頭巾と最凶コンビ、凸凹コンビ、あとオセロ君にサーチ・アイ。三はBOSSだけ。五からはLv.4-hを出すらしい。六は兄弟全員。七からもrob以外の全員を出す』


最後の言葉に、sigiriは左目を見開いた。


「ちょっと待て、willy-willyも出すのか?」

『おう』

「おう、って、お前……Dodo最大の戦力だぞ、そんなことをしたら連邦が危険に晒されるだろうが!」

『せやなァ。そうは言うても、俺達が決めたんや無いけど』

「…それは、そうだが。それにしたって、上の連中は一体何を考えて…」

『落ち着けや、sigiri。珍しいなァ?何や、俺のこと心配したってくれてるんか?』

「馬鹿。お前はいつもそうやって話を…」


sigiriが苦々しく呟くと、useは笑いながら両手を挙げてそれを遮った。


『大丈夫、大丈夫やて。Dodoは今の所連中も出とらんし、robも残っとる。まァ、いざとなったら俺も戦力に数えてもろて構へんし。相手がmobとなれば、尚更得意分野や』

「robは戦闘型じゃないし、お前は無理出来る身体じゃない」

『ひっでぇな、それが元・連軍の英雄に向かって言う台詞か?』


useはけらけらと声を立てて笑った。

sigiriはますます苦い顔になる。しかし言っても無駄だと察したか、敢えて言葉には出さなかった。

その代わりに、はあ、と一段と深い溜息を吐く。

そのまま暫く2人共沈黙していたが、ややあってsigiriが呟いた。


「……oakは、大丈夫だろうか」

『考えとると思った』


sigiriがuseの顔を見やると、彼は安心させるかのように優しく微笑んでいた。



その時、sigiriは思った。

この男を死なせたくないと。


けれど、何故だろう。

彼がそう遠くない未来に消えてしまいそうな、そんな直感があった。



*****


コメントする必要性が皆無な気が。事務的な説明がメインだからな。

そしてお話に於ける直感はほぼ100%の確率で的中するのがお決まりさ。


しかし時系列が微妙…死ぬことは確定してるけど、何時殺すかが問題。(←何かヤな言い方だなオイ)