不可思議な石造りの建造物の奥に、床の水面が天井に揺らめく場所があった。
天井に映し出された、幻想的な青。惹き込まれるように足を踏み入れる。
石のブロックは一見雑然と積まれているようで、しかし何かの規則を示しているようでもある。
ブロックに囲まれた四角の水面はそこここにあって、それぞれ繋がっている先が違うらしかった。
親切にも、一応行き先は書かれてある。(この辺だけやけにチープな白画用紙にマジックペン書き)
淡い光を発する床の水面と天井の揺らめきが相俟って、眩暈を起こしそうだ。
まだ何もしていないのに、迷路に迷い込んだかのような錯覚を覚えた。
徐に、ひとつの水面に潜った。
不思議と周りはよく見えた。石造りの壁が四方を固めている。
その一角に階段のようなものがあり、更に奥へと進めるようになっていた。
そのまま、進める方へ進んで行く。どうやら一本道らしい。水の中だというのに、何故か全く苦しくなかった。
やがて出口の光が見えて、そこで水から上がった。
小高い丘の上だった。
電車や車が走っている町が眼下に広がっていた。奥に見える美しいコニーデは富士山だろうか?
すぐ近くに廃工場のようなものがあって、自販がぽつんと離れて置いてあった。
向こうから1人の女性が近付いて来る。
煙草を吸いながら、クセっ毛の長髪の女性は「あんた、あそこから来たね」と丘の上を示した。
「ええ。ここはどこです?」
佐和良だよ、とその女性は答えた。何処の都道府県だろう、と考える。
自分が居た場所とはかけ離れた場所であると思い当たって、その女性に礼を言ってから再び丘の上へ戻った。
戻ると、自分が居た場所への入り口が無くなっていることに気が付く。
(白画用紙にマジックペンで行き先が書かれていた筈だが、元の場所が書かれた紙が無くなっていた)
立ち竦んでいる間にも石のブロックが自然に動き出し、生き物のように蠢いてその形を変えていく。
―――この『場所』は生きている。
そう感じさせた。
さてどうするか、と考え込んでいると、女の子が1人やってきて一緒に行くと言う。
またここに戻れる保障は無い、と言ってもついて行くのだと言うから、仕方無く2人で思い当たる場所に近い水面へ潜った。
今度は、水の中は真暗だった。
2人の不安げな手を探り当てて、自分の方へとしっかり引き寄せる。
(ここで1人増えているが、いつ現れたのかはわからない。夢の中の自分は特に不思議も感じておらず、同郷の年下の少女であるらしかった)
暗闇の奥に小さな光があって、そこへ向かって行くとまた別の場所へ出た。
そこは神社の境内だった。
大きな古樹が中心に一本生えていて、天高く伸びて葉を空一面に茂らせていた。その横に幾つか遊具があるのが見える。
ここは何処か?
境内の外にある自販を見ると、沖縄限定の飲み物が売られていた(何故それが沖縄限定だとわかったのかはわからない。亀という字があったのは記憶に残っている)。
「ここは沖縄だ」
益々、元居た場所とはかけ離れた場所に居ることになる。
また揺らめく天井の場所へ戻っても、元の場所へ帰る入り口は一向にわからない。
このまま永遠に迷い続けることになるかもしれない。
過去にそういった例があったことを聞いたことがあった。勿論、真相は定かでは無いが。
一瞬、恐怖が腕を撫でていった。寒気がした。
何もしなければ、何も変わらない。
揺らぎ輝く水面はその緩やかな流れの如く、絶えず迷路を更新し、人を惑わせ、閉じ込める。
去れど、この水は必ず何処かで繋がっている。
つまりは、光る水面のいずれかひとつはあの場所へ通じている筈なのだ。
自分達が居た、あの場所へ。
確率の問題だ。運が良ければ、次に入る水面が元の場所へと通じている。
なら、やってみるしかない。
いつの間にか、例の親切な画用紙も消えていた。この方が余計なことを考えなくて良いかも知れない。
3人でもう一度、ひとつの光る床に飛び込んだ。
泡が見えた。外から洩れる光はすぐに弱くなり、深みに沈んでいくにつれて完全に無くなった。
さっきと同じように、2人の手を探して力強く引き寄せる。暗闇の中でも、それだけで安心出来た。
やがて、小さな光が見えた。ひとつではない、何個も。
それらの光は素早く動いて、見る間に列になった。
その小さな光の列を追って―――
*****
はいここで終了。
実際はこの後も続くんですが、マイワールドネタなんで自粛。
夢の最後でこれが判明したんですが、正直吹きました。「お前だったのかよ!!?」と。
この直後に大ピンチに陥るんですが、衝撃のシーン(←これがマイワールドネタ)があって何故か全員助かって、元の場所にも戻れます。めでたしめでたし。
↑では水面と入り口で混同するかもしれませんが、両者はイコールです。
つーか、帰りの道が分からんくて永遠にさ迷うくらいだったら、沖縄でも何処でも出た場所から飛行機なり電車なりなんなりで帰れば良いって話じゃねーかと起きてから思いました。
まァ、そこは夢ですから。