夜なんだろうか。辺りは真っ暗だった。

その中で、赤い屋根の2階建ての家だけは、煌々と灯りが点いていた。玄関に女の子が立っていた。


2階建ての家の上には、家の幅程もある大きなシャワーの口がある。

天からの雨、神様の恵み―――蛇口は全開にはならない。

水滴はその滴る範囲を拡げることなく、連続した水流となって地面に降り注いだ。



女の子は目を凝らした。

真っ暗闇の向こう、ずうっとずうっと先へ。ぼんやりと灯りが見える。


家の灯りが見える。その前に立つ小さな影が見える。

影が動く。暫くじいと目を凝らして、その影が手を振っているのだと分かった。


自分も振り返す。

なんだ、と女の子は笑った。


遮るものさえなければ、地球の反対側に居たって相手のことが見えるんだ。



*****



おいで、

おいで、おいで、おいで、


どうして来ないのか?

何故、呼ぶ度に離れていってしまうのか?


おいで、


おいで、


おいで。


お願いだ、こっちへ来ておくれ。

そうでないと、悲しくってしようがないんだよ。



*****



映像は途切れ途切れで、2つの場面がちらちらと変わった。


白いワンピースを着た、長い黒髪の女の人。

女の子の恐怖に見開かれた瞳。


交互に見せつけられるその映像を見て、何処からか恐怖心が湧き上がる。



ああ、ああ、ああ。

誰か助けて。怖いよ。怖い、怖い夢を見たんだ。



夢を見るのをやめようとした、そうしたら顔を覆って起き上がった。

そこには母さんが居て、どうしたの、酷く魘されて、と心配してくれた。


母さん。その名を、呼んでみた。



……違う。



母さんは、ここには居ない筈なんだ。

自分は一人…ひとりで、自分の部屋で、寝ている筈なんだ。


ここには、誰も居ないよ。これは夢だから。




もう一度、夢を見るのをやめようとした。

そうしたら、今度は独りで目が覚めた。



*****


絶ッッッ対最後の夢はリングを観た所為だと思うんだがどうか。

もうリングなんて何年も前の記憶なのに…!

井戸が出て来なかったのが幸い。でもきっと、白いワンピースの女性の映像を見た時、彼女が向かっていた方向には井戸があったと思うんだ…。あああああ