緑青は、ちょっと片手(勿論、動く方のだ)を上げてvermillionを遮った。


「ちょい待って。humanoidって言ってるけど、じゃあandroidとかdollっつーのは何な訳?」

「どちらも、humanoidの内に含まれるロボットのカテゴリの一つです。androidは主に戦闘用に特化したものが多く、一方でdollは、家庭での召使いとしての利用や危険な場所での作業等、より一般的な人間の補助に用いられることが多いですね」


vermillionは、その橙色の目を瞬きもせずに説明した。


「ふーん…でもそれって、単に使う目的の違いだろ?何か見た目とかの違いってあんの?」

「いいえ。外見に関してはLv.1~Lv.5までのhumanoidとしてのランク付けに依存します。これはandroidもdollも同じですが、機体が人工皮膚で覆われる等、より人間を模した姿のhumanoidが現れるのはLv.3以上のようです。このLv.はAIの知能指数を示す基準でもありますので、それ以下のhumanoidだと外見に内容が伴わず、有用性が低下すると考えられます」

「…んん?androidもdollも同じって、じゃあ結局その2つはどうやって見分けるんだ?」

「判別が必要となる状況が発生する可能性は無いと思いますが?」

「例えばの話だよ」

「“例えば”そのような状況が生まれた場合、基本的にその判別は不可能です」

「え?!じゃあ、どうすんだよ」

「何がですか?」

「何がって…だから、判断する時にさ。こいつはandroidだ、こいつはdollだって」

「ですから、その判別が必要となる状況はまず有り得ません」

「……???何ソレ、だったら分けてる意味無いじゃんか。何だってわざわざ2つに分類してんだよ?」

「…科学的根拠の無い話ですが。一部のhumanoid研究者の間では、androidとdollの違いを“心”の存在であるとしているようです。即ち、dollには心が在ると」


緑青は唖然とした。


「馬鹿馬鹿しい!ロボットに心だって?」

「勿論、言った通り科学的な根拠は何も提示されていません。しかし、dollが自発的に涙を流したという記録は残っています」

「馬鹿馬鹿しい」


もう一度緑青は呟いて、はたと隣に座るhumanoidを見やった。


「vermillionは?泣けるのか?」

「はい。意図的には無理ですが」

「じゃあ、vermillionはdollなんだな?“そのやり方”で言うと」


皮肉っぽく言ってみたが、vermillionに効果は無かった。


「いいえ」

「んえ?何で??」

「正確に言えば、dollでもandroidでもありません。分類が不可能なのです。それらとは全く違うものですから」

「dollでもandroidでもないhumanoid?」

「はい。ですから、私は『humanoid』としか分類のされようがありません。cyborgとも異なりますから」

「…も一回言うけど、何で??」

「私の肉体が人間のものだからです。この顔、手、足、目、皮膚、全てが非人工物です。唯一、脳を除いては」

「人間の…?」


どういうことだ?


「人間の、って、じゃあ、元々、その身体は人間のものだった、っていうのか?」

「はい、そうです」

「ちょ、ちょっと待てよ。それなら、その身体を使ってた人間が居る、イヤ、居た、ってことだよな?」

「はい、そうだと思います」

「じゃあ、何だ、その人間っていうのは―――その、亡くなった人とか?」


下手すれば、知っている人物にとっては死人が生き返っているようなものでは―――そんなことを考えたのだ。

しかし、そこで初めてvermillionの表情が曇った。


「申し訳ありませんが、私には分かりません」



*          *          *


androidとdoll、humanoid、その他Lv.1~Lv.5の分類とかも全部フィクションですよ。念の為。