「use。お前、嘘を吐いたろう」

『へッ!?な、何や、急に』


いつだって唐突に(しかも的確に)急所を突いて来る彼の言動には、流石の自分も度肝を抜かれてばかりだ。咄嗟に映像と口調が噛み合わなくて、それが更に彼の不信感を確信へと変えていく。ここまで来ると、もう弁解の余地は無い。


「…やっぱりか。俺が居ない間、何をしていた?あいつとは話したんだろう?」

『あ、ああ…。えっと、イヤ、その…普通の世間話を、な』

「まさか、あいつをこの部屋に入れたんじゃあるまいな?」

『ま、まさか!それは無いで』

「…u・s・e。好い加減にしないと、怒るぞ」


ぎく、と身を強張らせたのは本体で(しかし実際に動いた訳では無いが)、映像体は素知らぬ顔。

…を続けていた筈だったのだが、じっと見つめてくる***の威圧に屈したのか、「そこに居る」useはややあって表情を崩した。


『全く、お前にゃ敵わんなァ。…何で分かったん?』

「写真の位置がずれてる」

『う…』


最初っから分かっとったんやないかと内心口を尖らせる一方、ぐうの音も出ずにuseは押し黙った。

自他共に認める彼のお喋りを黙らせることの出来る者は、そう多くは無い。そういう意味でも、***は彼にとって貴重な存在だった。

useにとって、***はどこまでも特別な人物だ。

嘘がバレたとて動揺することは滅多に無い、寧ろ非を認めるどころか、言葉巧みに相手を言い包めてしまう方がお似合いな(というかいつもそうである)彼であるのに、不思議と***の前では素直になるのだった。


「何も、お前の非を責めたい訳じゃない。お前の自由を束縛してるのは俺の方なんだからな。ただ、お前に嘘を吐かれたのは心外だ」

『…ゴメンナサイ』

「この部屋へも、あいつが勝手に入って来たのだろ?それならそうと言えば良い。何故、嘘を吐いた」

『だって、あいつと、そう約束したっちゅーか…』

「約束?」


訝しげに眉を顰める***を見て、useはしもた、と内心後悔した。


それから延々、useはいきさつを吐かされることになる。

話している間、***の溜息の数が2桁台に乗った所で、useは逃げ出したくなった。


「はぁ…」


これで通算13度目。***は額に手をやり、呆れ果てた様子でソファの背凭れに寄り掛かった。


「一体、何をしてるんだか…イヤ、何を考えてるんだか」

『や、だから、ごめんて』

「まあ、いいさ。確かに、部屋に入るなと言わなかったのは俺だ…鍵も掛けてなかったしな」

『え?それで、ええの??』

「?何がだ」

『イヤ、その…御咎め無し、ってことか?それ』

「何だ、怒って欲しかったか?」


ぶんぶんぶん、と首を勢い良く左右に振り、しかしあまりに呆気無かった所為か、useはぽかんとして***を見た。じっと凝視し、次第に顔を近付けてしげしげと細部まで眺める。

最初は目を閉じて無視していた***だが、何となしに感じる視線が鬱陶しくなったのか、機械の右目をぐり、と動かしてuseを捉えた。useの再現された赤い瞳が、すぐそこにあった。


「何だ」

『***、お前…』

「ん?」

『ちょお、老けたんやないか?』


…………。


「…何を言ってる。年齢を重ねてるのは元々だろうが」

『イヤ、そうやなくて…何かこう、丸うなったったなァって』

「use、言っておくが俺は怒っていない訳じゃ無いんだぞ。そうだな、暫く音源を抜くか」

『や、そりゃ勘弁したってぇな!』

「冗談だ」




お前の冗談はタチ悪いで、とか何とか悪態を吐きながら、useは一旦引き揚げていった。

ふう、と一息吐いてから、再びソファの背に身を預ける。

薄く左の瞼を開けると、正面にある例の写真が目に入った。


今と何一つ変わらない自分が写っている。いつもながら、鏡を見ているようで気味が悪い。

その両側に2人の少年。屈託無く笑っている。



三月と葉月。

それが2人の名。



***は今度こそ目を閉じ、意識を闇の底へ沈めようとした。


(…そろそろ、あいつが起きる)

(また、眠らせなければ)


あの男は、あの部屋へも入ったんだろうか?

否、入ったと見て間違い無いだろう。好奇心旺盛な子供は、これだから困るのだ。
そろそろ、本格的に考えなくてはいけない。

あの居候人を、どうするか。



*          *          *


溜息吐くと老けるというが、彼はそれに見合った年生きてるので問題ナシ。