『お前、ホント御節介な奴やなァ』


ケタケタ笑うuseが、またいつの間にか部屋に居た。

それに気が付いた時、声こそ出さなかったが瞬時に肩を強張らせて30cm位身を引いた。

毎度ながら、本当に心臓に悪い男だ。


『ええ加減慣れえや。その内心臓止まるで』


心の中まで覗くとは、これまた別の意味で心臓に悪い。否、それはともかく。


「御節介って言うか…放っておけないじゃんか」

『放っとけ放っとけ。お前が絡むと余計ややこしうなる』

「せめて理由を教えてくれよ。何であんなこと言うんだ?さっぱり分かんねぇし…」

『そら、お前にはいくら考えても分からへんやろなァ』


澄ました顔でuseははぐらかす。俺がそっち方面に疎いのを良いことに、彼には毎度からかわれている気がする。

けれど、こんな風に焦らされるのは大嫌いだった。緑青が反論しようとしたまさにその時、本当にこちらの心情を見透かしているかの様な絶妙のタイミングで、useは続けた。


『まあ、理由は至極簡単やけどな』


思わず喉まで出かけていた言葉を飲み込むと、useはそれを意図したという意味なのか、それともいつも通りの表情を出しただけなのか、こちらを向いて口元に笑みを見せた。…本当に、口元だけ。

また思わせぶりな態度でこちらの出方を窺ってくる。嫌味な奴。


「理由って、何だよ」

『俺が教えるのもアレやしなぁ、そろそろ***に怒られるわ』

「***が教えてくれないからお前に訊いてんだぞ」

『それもそうか』


何が可笑しいのか、useはくっくっと下を向いて短く笑ってから、そのまま大きく肩を竦めた。


『…***はな、vermillionがLv.5-hになってまうのが怖いんや』

「は?Lv.5-h…」

『言うたやろ。俺はLv.5-hやって』


そう言えば、最初に会った時にそんなことを言っていた様な。

彼特有の早口だった上に頭が絶賛パニック状態だった中で、しかも聞き慣れないそんな単語を憶えていたというのは、ひょっとしたら奇跡に近いんじゃないか。緑青は自身に感動を覚えた。


「…ンなこと言われても、全っ然答えが見えて来ねえんだけど」

『あーもう。いちいち面倒な奴やな』


悪かったな。どうせ俺は機械音痴だよ。

言葉で返す代わりに、表情で示しておいた。あっさり無視されたが。


『humanoidにはLv.1~Lv.5まで、大雑把なランク付けがあるんや。Lv.1と2は産業用ロボットが主体やな。Lv.3以降にはもれなくAIがついてくる。明確な区切りがあるのはその2と3の境界だけで、後は結構テキトーや』

「テキトーって…。…ふーん、じゃあ、てことは、Lv.5が一番良いのか?」

『何が良いのか知らんが、まァ一番高性能っちゃそう言えるな。あと、一番“人間に近い”ってのもそうやで』


目の前の彼は、その最高ランクに位置しているという訳だ。…道理で。

そうとなれば、気になるのはこの家に住む、もう一人の人形。


「…vermillionは?」

『そう。だから、そこが問題なんよ。…あいつは、元々はLv.3やった』


useは右手をジーンズのポケットから出して、手持ち無沙汰に指先を弄んでいる。

そうでもして、自分を自ら蚊帳の外に置こうとしているかの様だ。言葉の端々に傍観者の気配がある。


「“だった”?ってことは、今は違う、ってのか?」

『そやで?今のあいつは確実にLv.4や。同類の俺から見ても間違うない』

「何で?機械なのに、変わることなんてあるのか??」

『そんなことがあるから今のあいつが居るんやろ』


またはぐらかされたかと思ったが、useは続けて、過去にそんな例はいくつかあった、と話した。


『そうは言うても、例があるのは4と5の間だけやけどな』

「Lv.4から5になるってことか?」

『そや。Lv.4とLv.5の壁はそう厚いもんやない。区切りもテキトーやし、Lv.4でも高度な奴なら尚更な。それにしたって、前例は指折り数えて片手で足りる程の数やで』


それが多い数字なのか少ない数字なのか、それすら自分には分からないんだっつーの。


『けど、Lv.3がLv.4になる言うんは前代未聞や。vermillionのAIは異常な成長を続けとる。…だから、***は単純にあいつに知識を与えないことにしたんや。元々、入ってくる情報は大幅に制限されとる空間やしな』

「…それで、義勇軍のことも何も知らなかったのか。vermillionも、それで俺に話をして欲しいって…」

『AIいうのは、貪欲に知識を吸収したがるのがデフォルトやからな』


森の話を聞いて、目を輝かせていたvermillionの表情を思い出す。あの時は、何でそんなに興味を持つのか、そもそも何でそんなに無知なのか(自分が言えたことでは無いが)、色々驚かされた訳だが。

何となく、合点がいった。確かに、彼は純粋に外の世界が知りたかったのだ。


「もしこのまま知識を吸収し続けたら、その内…Lv.5にもなるって、***はそう思ってるんだな?」

『そういうコト』

「でも、何をそんなに怖がる必要があるんだよ?Lv.5になるのって、何か悪いことなのか?」


***の厳しい表情が脳裏に浮かんだ。あんなに強く止める程、それが嫌なのか。怖いのか。

useは、弄んでいた指先の動きをぴたりと止めた。


『…さっき言った筈やで。その数字は、どれだけ“人間に近い”かを示す数値でもあるってな』

「え?あ、うん、言ってたな」

『なら解るやろ。あいつは、“誰”になると思う?』


誰?、に、“なる”???

useの言っていることが理解出来ず、緑青は首を傾げた。

vermillionが、“誰か”に“なる”?



(私は人間ではありませんよ。私は―――…)



心の中でうんうん唸ってから、緑青は漸く、彼のあの時の言葉を思い出した。



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memo:挿入→eiza登場直前?

こう説明が多いと内容考えるのは楽だけど、無駄に長くなるな。