急いで。早く。下の方に何かある。降りなくちゃ。高い。この建物は、何だ?

見知った機械の名を呼ぶ。

憶えててくれたんだね、と嬉しそうに返してきた。

当たり前じゃないか。自分は機械が好きなんだ。君達のことを忘れるもんか、全員の名前を言えるよ。

仲間が出てきた。1体、2体…全部で6体。ありがとう、来てくれたんだ。


下へ着いた。兄貴と婆ちゃんが一緒。でも婆ちゃんは走れない。兄貴も動けない。さっきまでは走ってたのに。

それまでは自分が婆ちゃんを背負っていたけど、今度は兄貴を担いで走った。重い。足が思うように前に進まない。

飛行機が離陸する。急がないと。

ここから逃げなきゃならない。


飛行機の入り口まで来た時、残り20秒という表示が見えた。赤いディジタル数字。

兄貴を降ろして、来た道を戻る。逆に大勢の人々があちらから向かってくる。皆、逃げて来てるんだ。あと18秒。

無理だ。間に合わない。残り15秒。胸の中でカウントした。けど、途中でそれも忘れた。


婆ちゃんが居る所まで戻って、重い扉を開けた。婆ちゃんがそこに座ってた。

背負おうとした時、物凄い爆音が聞こえてきた。そして辺り一帯に吹き荒れる風。

飛行機は行ってしまった。兄貴と、ここに居る自分達以外の人々を乗せて。


そこに座り込んだ。とても疲れた。機械達が近くに寄り添ってきてくれた。


「行っちゃったね」

『うん、行っちゃった』

『あーあ、行っちゃったなあ』

『どうしようか?』

『ここに居ようよ』

『そうしよう。僕等ここに一緒に居よう。ね?』

「うん。君達と居れれば、それで、いいや」


このまま、ここで死のう。

何だか、死ぬのも怖くなかった。


白衣の人達が歩いてく。その中の一人、眼鏡を掛けた男がこちらを見た。

可哀想だが、置いていくしかないな。

そう言って、彼等はいつの間にか扉の前に停まっていた少し小さな飛行機に乗った。

高い風の音。木の葉がそこらを舞った。もうプロペラは回り出している。


「詰められるか?」


小さなスペースが出来た。そこへ婆ちゃんを抱えて乗り込んだ。

もっと詰めて。もっと大きなスペースが出来た。そこへ機械が全員乗り込んだ。そして飛行機の入り口は閉じられた。

安堵した。全員が無事に脱出できるのだと。

もう、この建物の中には誰も居ない。一人も居ない。

音が大きくなり、機体が浮いた。そのまま建物を離れていく。


大きな大きな石造りの建造物。途中で別の建物と繋がってる。そしてまた別の建物へと繋がる。

一様な建物が連なり、壁面にある窓は押し並べて真っ暗。下の方に道路がある。けど、車も何も通っていない。

ああ、あの建物だけじゃない。自分は戦慄した。



この街全てが、無人の静寂に包まれている。