何処かの一室。3人の男が思い思いのことをしている。

1人は音楽に耳を傾け、1人は手元の本に目を落とし、1人はベッドで就寝中。


「なぁ、あの新入り、どう思う?」


その内の1人(音楽を聴いていた男だ)が、口を開いた。いつの間に外していたのか、イヤホーンは横のテーブルに置いてある。


「新入りって…Cyanのことか?真面目だし命令遂行能力も高い、文句無しの優等生じゃないか。それでいて適度な社交性もある。なかなかバランスのとれた奴だと思うが」

「だーもー。そういうカタイ返事を期待してるんじゃなくて…」

「何だ」


黒い帽子を被った黒髪の男はむすっとして、こちらを睨み付けた。質問の意味を明確にしろと言わんばかりの視線。


「俺が言いたいのは、あいつの顔だよ。あいつ、本当に仮面か何かつけてるんじゃないのか?」

「仮面?」

「ニコニコ仮面」

「頼む、誰かこいつをAI矯正施設にブチ込んで来てくれ」

「…誰かって、ここにはお前等の他に俺しか居ねえけど」


ベッドで横になっていた金髪の男が、こちらを見向きもせずに言った。


「聞いてたのかよ。なあ、お前はどう思う?この疑惑」

「どうでもいい」

「わ!ひでえ」

「お前と共感を抱いたのは初めてかもしれない」

「ちぇ、何だよ。じゃあお前等2人、あいつが笑ってないトコ見たことあんのか?」


2人は、片方は椅子に座って本を広げたまま、もう片方はベッドに仰向けに寝そべって組んだ手を枕にしたその体勢のまま、文字通り沈黙した。


「…無いけど」

「ああ、無ぇな」

「ホラホラ。見たいと思わねぇ?あいつの素顔。仮面の裏のホントの顔をよ」

「別に。…どうせその内見れるだろうし」

「ああ」

「つまんねぇ奴等だなァ。もーちょい新入りに対する興味とか無ぇのかよ?」

「大体、本人に直接訊けば済むことだろうが。そんなに気になるなら今から行って来い」

「それじゃ面白くないだろー?やっぱここは、ビックリさせるとかわざと怒らせるとか、イベントを用意してだな」

「…何でそんな所で面白さを追求してるんだ、お前?」

「……」

「コラ、寝るなforce!」


2人の態度に口を尖らせてみても、一向に改善される様子は無い。


「第一、仮面と言ったら完全に固定されている顔だろう?形容のことを言っているのなら正しいかもしれないが、Cyanは口も動かすし、笑顔であっても微妙に表情は変わるぞ」

「…あぁ、そっか。うーん、じゃあ仮面ってのは無いにしても、あいつの素の表情を見てみたい!」

「…勝手にやってろ」

「俺が思うに、あいつはいっつもニコニコしてる反面、怒らせたりしたら急に性格が変わっておっかなくなるタイプだぜ。なーなー、それ、試してみない?名付けて『Cyanの笑顔壊してみよう大作戦』だ」

「はいはい」


好い加減相手をするのにも疲れたのか、適当に相槌を打って済ませる黒帽子。もう一人の金髪の男はさっきから完全に無視している。それとも寝たのか。

そんな彼等のつれない態度には御構い無しに、彼は話を続ける。


「あいつの素の顔って、どんなんかな。あいつ目が青いから、睨まれたらそれだけで温度下がりそうな…っっくぅ~!何か楽しみになってきた!どうしようか。どうしたらいい?」


何故そこを俺に訊く、と黒帽子は思ったが、これまでの会話でのパートナーの知識レベルを考えたらそれもアリかと考え直した。


「坊やに協力願えば良いんじゃないか?少なくとも俺達よりはCyanに詳しい筈だ」

「お前アッタマ良い~~~~!!!!★」

「さっきから五月蝿いんだよ、そこのツンツン頭のチキン野郎!脳味噌カチ割るぞ!!」

「俺の脳味噌カチ割るのは構わねーけどそこに置いてある瓶割ったら神経線維全部引き擦り出すぞクソ野郎」


がば、と起き上がった金髪頭(実際どちらも金髪なのだが)の一言に、完全に浮かれていた声色が一気に氷点下まで下がった。その弱味を公言しなければ握られることもないのだが、と黒帽子は毎度のことに小さく溜息を吐く。

尤も、彼にとってそれは弱味ではないこともよく知っているが。


「良~い度胸だ…何入れてやがんだ?この瓶」

「純度100%の天然オイルだよ、100体ぶっ殺した記念にそいつから採ってみたらそいつ天然オイルで動いてたんだよ。そいつを精製したもんだ、だからそうそう気安く…」


一触即発と言っても良い様な2人の険悪なムードは、突然響いてきた扉のノックの音に遮られる。続いて部屋の中に呼び掛けられた声は、大柄だけれど心優しい先輩のそれだった。

本を閉じ、カドを用意していた黒帽子が応じると、仲間一の大男がドアの隙間から顔を覗かせた。


「ちょいと邪魔するけど。…なんか、さっきデカい声出してなかったか?また喧嘩してんのか、お前等」
「ramさん!」


跳び付かんばかりの勢いで先輩の方へ身を乗り出したパートナーに、黒帽子は主人を見付けた犬の様だという簡潔な感想を(少々軽蔑も込めて)抱いた。尻尾がついていたら千切れる位に振っていそうだ。

全く以て、コロコロ変わるこの相棒の性格には困ったものだと思う。


「丁度良かった、ちょっと聞いて下さいよ。新人のことなんスけど」

「うん?新人って、Cyanのことか?」

「そう。あいつのことで少し協力して欲しいんス。あとkidにも」

「…それより、forceの視線がやけに痛いんだが。やっぱり何かやってたのか?」

「いーんスいーんス!放っときゃいーんス。こいつ馬鹿だから!」

「……」


一瞬、その場の空気が鉛の様に重く感じられる程の殺気が漂ったが、当の本人はぷいと身体を横にしてこちらに背を向けてしまった。馬鹿馬鹿しくて反論する気にもなれなかったのだろう。

珍しいな、とでも言いたげに先輩が目を丸くしている。…それ程迄に下らないということか。


「…まあ、いいか。で、協力って?何に?」

「『Cyanの笑顔壊してみよう大作戦』っス!」

「しあんのえがおこわしてみようだいさくせん?…何だ、それ??」

「Cyanって、いっつも笑ってばっかじゃないですか。だから、素のままの顔が見たいなーって。イヤ、寧ろホントはあの顔は仮面なんじゃないか?!っていう疑惑ですけどね」


すると、先輩は「ああ、成る程」と苦笑した。


「確かに、あいつはいつも笑ってるからなぁ」

「でしょ?で、多分ああいう奴って素顔になると性格が凶暴になったりして…」

「そんなことないさ。俺はあいつが笑ってない所を見たことあるし、その時も別に普通だったぞ?」



硬直。



…心優しい先輩が、天然という名の地雷で後輩の夢を粉々にした瞬間。

否、正しい方向へ導いて下さったと感謝しておくべきか。


「……本当スか、それ」

「うん、本当。博士に会ってる時は大抵普通の顔だから、今度覗いてみな」

「………」


押し黙る彼。大袈裟に肩を落とし、俯いた顔からは表情も読み取れない。笑いを堪えつつ、ぽん、と肩を叩いておいた。

パートナーのあまりの落胆ぶりに、訳がわからず動揺し出す先輩。


「な、何だ?俺、何か言ったか??」

「何でもないです」


ショックで返事も出来ないパートナーに代わって、お気になさらずに、と笑顔で応えておいた。





―――時間は休むことなく、確実に流れていく。



*          *          *


当の本人が出て来ない(笑)イヤ、こいつはそのまま出すより会話の中で出した方が良いかなと。

パタンがGreenと似てるのは否めない。連作してると自分の語彙の無さや表現の仕方が固定されてるのがよくわかる。