東北地方を中心に大きな被害をもたらした3.11地震。
我が周辺も慌ただしい状況に巻き込まれました。
我が周辺も慌ただしい状況に巻き込まれました。
当日、
私はあるホテルの一室で謝恩会に参加しておりました。
私はあるホテルの一室で謝恩会に参加しておりました。
午後3時前。
そろそろ宴も終盤にさしかかった頃、
揺れ始めたのです。
揺れ始めたのです。
地震の多い関東。
初めのうちは「すぐに揺れもおさまるだろう」位の感覚でいたが、
その気配はない。
初めのうちは「すぐに揺れもおさまるだろう」位の感覚でいたが、
その気配はない。
むしろ大きく揺れ始め、
頭上の照明が大きく回り、
スポットライトもギシギシ音を立てながら前後左右に動く。
頭上の照明が大きく回り、
スポットライトもギシギシ音を立てながら前後左右に動く。
さっきサーブされたばかりの珈琲がカップからこぼれ、
天井からは砂埃がパラパラ降って落ちる。
天井からは砂埃がパラパラ降って落ちる。
鉄筋の大きな柱が揺れている。
大きく重いドアも揺れに合わせ前後に開く。
大きく重いドアも揺れに合わせ前後に開く。
かろうじて立って歩ける状況で、
従業員の案内で廊下に出ると、
従業員の案内で廊下に出ると、
廊下を照らすスタンドライトが、
床に叩き付けられてパシャンと音を立てて消える。
床に叩き付けられてパシャンと音を立てて消える。
窓から見える中庭のテーブルと椅子は、
自らの脚で不規則に縦横に動く。
自らの脚で不規則に縦横に動く。
避難の為に向かった大きな螺旋階段に、
吊された3mはあろうシャンデリアは、
取付け具も壊れんばかりにギイと音を立て、
尋常ではないスパイラルを描く。
吊された3mはあろうシャンデリアは、
取付け具も壊れんばかりにギイと音を立て、
尋常ではないスパイラルを描く。
「落ちるかも知れません!危ないので近寄らないで下さい!」
従業員が大声で制止。
とりあえずその場で揺れが小さくなるのを待つ。
とりあえずその場で揺れが小さくなるのを待つ。
皆ざわつく。
先程までの笑顔が嘘のようだ。
出来ればこの現実が嘘であって欲しい。
出来ればこの現実が嘘であって欲しい。
泣き出している子もいる。
どうすべきか。
とりあえず持っていたipodでラジオを聞いた。
とりあえず持っていたipodでラジオを聞いた。
「東北地方で…」
「大きな揺れが…」
「津波が…」
「海岸から避難…」
「大きな揺れが…」
「津波が…」
「海岸から避難…」
信じられない言葉が、
矢継ぎ早にイヤホンから聞こえてくる。
矢継ぎ早にイヤホンから聞こえてくる。
だが繰り返しそれを伝えるのみで、
大きな地震があったということ以外は
わからない。
大きな地震があったということ以外は
わからない。
引き返して避難路を変え、
外に出る。
外に出る。
当然だが我々の他にも、
利用客がいる。
もちろんホテルの従業員もだ。
利用客がいる。
もちろんホテルの従業員もだ。
結婚式も行われていたのだろう。
ドレスの人着物の人、
そのまま避難してきた人、
コック帽をかぶったままの人。
ドレスの人着物の人、
そのまま避難してきた人、
コック帽をかぶったままの人。
それぞれに安否を確認しあっている。
我々も逃げ遅れた者が居ないか確認、
全員無事。
全員無事。
けが人は無かったようだ、
とりあえずよかった。
とりあえずよかった。
しかし、
泣き崩れる者、
ただ青ざめる者。
泣き崩れる者、
ただ青ざめる者。
携帯で連絡を取る者。
連絡など着くはずもなく、
不安ばかりが大きくなる。
連絡など着くはずもなく、
不安ばかりが大きくなる。
大きな揺れが収まる。
頃合を見て、
ホテルのバスで各自最寄りの交通機関まで行くようだ。
頃合を見て、
ホテルのバスで各自最寄りの交通機関まで行くようだ。
アルコールを飲んでいなかった私は、
自分の車で職場に戻ることにした。
自分の車で職場に戻ることにした。
職場までは約2km。
大した距離ではない。
大した距離ではない。
だが、
事はそんなに簡単ではなかった。
事はそんなに簡単ではなかった。
既に渋滞で車は列をなす。
停電で信号機は点滅すらしておらず、
主要幹線道路は動く気配もない。
停電で信号機は点滅すらしておらず、
主要幹線道路は動く気配もない。
至るところでブロック塀が崩れ、
屋根から落ちた瓦もちらほら、
ショールームの窓ガラスが割れている。
屋根から落ちた瓦もちらほら、
ショールームの窓ガラスが割れている。
遠くでサイレンが聞こえる。
車に乗っていても地震の揺れを感じる。
車に乗っていても地震の揺れを感じる。
小さな裏道を繋いで20分ほど、
ようやく到着。
ようやく到着。
近所の中学校と高校は、
グラウンドに生徒を避難させていた。
グラウンドに生徒を避難させていた。
職場の建物は、
揺れで各所の扉が開いている。
揺れで各所の扉が開いている。
落ちたコンクリート片が散らばり、
割れた窓もある。
割れた窓もある。
災害警報機が鳴り続き、
非常扉も閉まる。
非常扉も閉まる。
非常口のサイン灯も割れて落ち、
一部床のタイルがめくれ、
消火器も転がっている。
一部床のタイルがめくれ、
消火器も転がっている。
本棚は倒れ、
床一面に書籍が。
床一面に書籍が。
電話は不通、
電気も付かない。
電気も付かない。
何をどうすればいいのか、
と言うより、
何も出来ないのだ。
と言うより、
何も出来ないのだ。
しょうがないのだ、
そう自分に思い聞かせ、
そう自分に思い聞かせ、
夕刻まで状況の確認をし、
帰宅することにした。
帰宅することにした。
道路はますます混んでいた。
街中心に向かう対向車線はさらに酷い。
街中心に向かう対向車線はさらに酷い。
たかだか数㎞の家路を、
1時間かけて帰宅、
歩いた方が早い。
1時間かけて帰宅、
歩いた方が早い。
アパートは大丈夫だったようだが、
大家さん宅の倉庫は半壊。
大家さん宅の倉庫は半壊。
我が家に着く、
ドアを開ける。
ドアを開ける。
予想どおり、
部屋の中は惨憺たるもの。
部屋の中は惨憺たるもの。
シンクの扉は開き、
引き出しという引き出しは全開、
引き出しという引き出しは全開、
皿もグラスも、
割れ放題。
割れ放題。
棚にあったCDや本は全て床に。
冷蔵庫も揺れた所為で壁にぶつかり、
壁に穴を開けている。
壁に穴を開けている。
中のものが一面にぶちまけられているが、
ガラスや陶器の破片も一緒に落ちており
手のつけられない事態。
ガラスや陶器の破片も一緒に落ちており
手のつけられない事態。
つまりここも、
電話・電気・水が使える状態ではない。
電話・電気・水が使える状態ではない。
後になって気付いたのは、
ガスは使えたようだ。
プロパンガスだったので。
ガスは使えたようだ。
プロパンガスだったので。
トイレを見ると、
貯水タンクから水がこぼれたのか、
水浸し。
トイレットペーパーも使い物にならず。
貯水タンクから水がこぼれたのか、
水浸し。
トイレットペーパーも使い物にならず。
だがもはや、
日も暮れる時刻。
日も暮れる時刻。
何も出来なくなる。
ここで幸いだったのが、
三点。
三点。
一つは、
本日の式典で出されたお弁当の余り分を貰って来れたこと。
貰ったのは地震前の事だったので、
これはラッキーであった。
本日の式典で出されたお弁当の余り分を貰って来れたこと。
貰ったのは地震前の事だったので、
これはラッキーであった。
そしてもう一つ、
先日寒かったので烏龍茶を
ヤカンに沸かしていた。
残りが3L弱。
先日寒かったので烏龍茶を
ヤカンに沸かしていた。
残りが3L弱。
さらにもう一つ、
先日の南半球での大地震があった際、
思い立ち、
懐中電灯を手に取りやすいところに置いてあったのだ。
これだけで随分出来ることが増えた。
先日の南半球での大地震があった際、
思い立ち、
懐中電灯を手に取りやすいところに置いてあったのだ。
これだけで随分出来ることが増えた。
荒れたままの部屋の中で、
弁当を食べる。
弁当を食べる。
好き嫌いなど言わない、
ご飯がこんなにありがたいと思ったことはない。
海老の尻尾まで残さず食べた。
ご飯がこんなにありがたいと思ったことはない。
海老の尻尾まで残さず食べた。
そして買い出しに行くつもりで、
懐中電灯を持って外に出た。
懐中電灯を持って外に出た。
しかし、
どこもやっている訳などない。
皆被災しているのだ。
どこもやっている訳などない。
皆被災しているのだ。
せめて実家に連絡を入れるべく、
公衆電話を探す。
公衆電話を探す。
災害時優先電話。
こんな時公衆電話は強い。
優先的に繋がるのだ。
優先的に繋がるのだ。
しかも無料で利用出来る。
前に居た一人が電話を終わると、
実家に電話をかけ、
無事を伝える。
実家に電話をかけ、
無事を伝える。
テレビでの報道を見て、
心配してくれていたようだ。
心配してくれていたようだ。
出来ることもなくなったので、
部屋に戻る。
部屋に戻る。
すっかり夜である。
あたりは街灯もつかず真っ暗。
あたりは街灯もつかず真っ暗。
渋滞も解消されたのか、
時折走る車のヘッドライトが寂しくアスファルトを照らす。
時折走る車のヘッドライトが寂しくアスファルトを照らす。
民家に灯り一つ点いてない。
皮肉にも雲一つない夜空には三日月と星が、
いつもより多めに明るく輝く。
皮肉にも雲一つない夜空には三日月と星が、
いつもより多めに明るく輝く。
そして余震は続く。
電気がないということは、
テレビもラジオもPCも暖房も使えないということ。
テレビもラジオもPCも暖房も使えないということ。
暖房は日頃から使ってないので、
大した問題ではないとして。
大した問題ではないとして。
情報がない、
これは大きな問題だ。
これは大きな問題だ。
こんな時こそなんとか情報を得たいものである。
そういえばPSPとDSがあった。
これらにチューナーをつければ良い。
これらにチューナーをつければ良い。
足元おぼつかない部屋の中で、
埋もれた物の中からDSとチューナーを探し出す事が出来た。
バッテリーの残りも充分。
埋もれた物の中からDSとチューナーを探し出す事が出来た。
バッテリーの残りも充分。
ワンセグテレビをつける。
これだけで安心出来るのだから不思議なものだ。
これだけで安心出来るのだから不思議なものだ。
報道特番がやっていた。
暗闇の中で食い入るように画面を見る。
ここで初めて東北地方の惨劇を知る。
ここで初めて東北地方の惨劇を知る。
我々はまだ良かった方なのだ。
いろいろ思い祈る。
明日もある、
早く寝ることにした。
早く寝ることにした。
この頃で午後10時過ぎ。
半日経っていた。
半日経っていた。
森山田