その口は、
もう何も語らず、

その手は、
もう何も掴まず、

その目は、
もう何を見ることもなく、

その足は、
もう歩むことはない。


鼓動は熱を無くし、

魂は居を失う。


人は脆いものだ。

命は儚いものだ。



「朝に生まれ、

 夕べに死す。」


しかし、

夕べを迎えることなく、

逝く者もある。



今朝、
彼は旅立っていった。

父を残し、
母を残し。

片道の旅路へ。


僅か、
20年の人生。



あまりにも若すぎる。

あまりにも急すぎる。



その刹那、

おそらく彼は、

己の生死すら、

選べなかった事だろう。



そこにあるのは、

生きたくとも、
生きることの出来ない命。



抗う事も出来ず、
従うものが運命だというのならば、

運命とは、
なんとも残酷なものだ。



生きる我々に出来ることと言えば、
忘れないことだけ。


悲しいかな、
ただそれだけ。






せめて、

花束を。







合掌。









森山田