食欲はあまりなかったが、元気になるためには食べなくてはと思い、少しずつ食事の量を増やすようにした。

 気持ちが落ち込んでいる事も食欲のない原因ではあったが、味覚が鈍くなっていてあまり食べ物の味がわからないというのも食欲がわかない大きな要因のひとつだった。


 何を食べても美味しくない、というかよくわからない。

味覚が鈍くなっていると気が付いたのは料理の味見をした時だった。


 私は基本的に濃い味が苦手なので割と味覚は敏感な方なのだけれど、料理をお玉ですくって味見をしても濃いも薄いもわからいのだ。何度試してみても、やはりわからない。


 私はあきらめて、素直に主人に打ち明けた。


「味覚がおかしくて味がわからないから、暫く味が多少おかしくても我慢して」


 味見をしなくても、軽量スプーンやカップを使えば大きく失敗することはないし、大体の感覚があるので大きく味が変わるということはないだろう。

 問題は料理の味ではなく、私の味覚だ。


 ストレス性のものは耳や鼻、口あたりに結構来ると、いつか誰かが言っていた。

そうなのかもしれない。母もストレスで難聴になったし、私も声が出なくなった。そして味覚も・・・・。


 元々生まれつきの近眼で非常に目が悪いのに、喋れなくなって、味覚がなくなって、私はどうなってしまうのだろう。これで母の様に耳まで聞こえなくなってしまったら・・・・・。


 時々、耳鳴りがして、その度に私は恐怖にかられた。


 どうか、耳が聞こえなくなりませんように・・・・・・・!!!


 私自身はそんなにストレスを抱えているという自覚はなかったのに、どうしてこんな事になっているのだろう。

 声が出ない、味覚がない、そういう不安はストレスになる。それは自覚することができるが、根本的な原因は一体なんなのだろうか?


 カウンセリングには月2回通っているけれど、正直これでなにが変わるのか?

と、いつも疑問に思う。

 無意味に思えるようなカウンセリングでも、効いているかわからないお守り程度の薬も、今の私に必要なのだと言われれば受け入れる。

 私にはそれしか出来ないから。


 ふと、思う。



 私の中には、私の知らない私が居て、そのもう一人の私が酷く辛い思いをしているのではないかと。


 多重人格とは違う気がする。


 私は記憶が無くなるから覚えていないけれど、それを覚えている自分が居て、その自分が辛いと身体にうったえているのではないかと。


 多重人格は記憶のない間に他の人格が身体や心を支配するけれど、私にはおそらくそういった事はない。

 ただ、忘れてしまうだけ・・・・・・・。


 過去の記憶は曖昧で、最近のことも危うい。私の脳はやっぱりちょっとヘンだ。

どうしてこんなにすぐに忘れてしまうのか。嫌な事以外でも忘れてしまう。


 それでも私は、日々少しずつ声が出るようになっていた。


 自分では何が何だかわからない。何で出るようになっていったのか?何で出なかったのか?


 初めは小さなかすれた声。


 それからもう少し大きく話せるようになっていった。


 だけど、くぐもった喉につかえるような声で以前の自分の声とは違ていた。






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