一度出た声が、再び出るまでは暫く時間がかかった。
けれど日が経つにつれて少しずつだけど、声になるようになってきた。
その声は細く小さくて、不安定なものだったけれど、日々出る様になってきた。
けれど病院では相変わらず筆談だった。
診察でも、カウンセリングでも、声は出ない。
幼稚園や学校に行っても同じで、知らない人や面識の薄い人とはまだ話せない様だ。
ある日、幼馴染の友人と買い物に出かけた。
喫茶店で筆談をしたあの友人だ。合うのはあの日以来だったが、その日はやけに調子がよくスムーズに声が出た。芯のあるしっかりした声ではないけれど、紙やペンを使わずとも意思の疎通が出来る程度に出ている。
「これだけ話せるようになれば、かなりいいね!!」
友人も喜んでくれた。
一緒に入ったファーストフードで、メニューを指刺し自分で注文をした。小さな声でもちゃんと伝わった。店員さんと話すなんていつ以来だろう?1人で自分の事が出来るという事がやけに嬉しかった。
今まで声が少し出る様になったという事を親しい人にもあまり伝えていなかった。
その日によって出たり出なかったりだし、出ると言って期待されるとプレッシャーになりそうだったからだ。
でも、もう報告してもいいよね。
そう思ってA先輩にメールをした。私は朗報をA先輩に一番先に伝えたかった。
「声が少し出る様になったよ!!筆談を卒業できたんだ^^」
と、送ると、
「おめでとう!!やったね!今度カラオケ行こう♪」
と、返信がきた。
「ありがとう、次合う時は話せるね!」
「本当に良かったよ」
などと、数回やり取りをして、私は完全に浮かれていた。
翌日は幼稚園の母親参観日だった。
参観の後、同じクラスのお母さん同士でランチをする約束になっていたが、私は今日は皆と話せると思い込んでいた。
静かに参観をし、ファミレスに移動した。
・・・・・・・・出ない。
声は全く出ない。
きんぎょみたく口をパクパクさせて、結局ペーパーナプキンにボールペンで伝えたい事を書いた。結局この日は最後まで声を出す事は出来ず、私は酷く落ち込んだ。
筆談は、卒業した・・・・・なんて昨日メールしちゃったけど、もう戻っちゃったよ・・・・・。
子供を寝かしつけた後、涙がポロポロこぼれた。
昨日あんなに嬉しかったメールが、余計に辛い。言わなきゃ良かった・・・・・。
「ゴメン、今日幼稚園に行ったら、全然出なかったよ^^;」
A先輩にメールした。
なるべく暗いメールにならない様に、精一杯無理をした。
「そうか・・・、精神的なものが原因だし、出ない場所とかあるのかもね」
と、返信が返ってきた。
そうだよね、明日はきっとまた出るよね。
だって昨日はあんなに出たんだから・・・・・・・・・。