グッチの歴史。創業者一族が去るまで

グッチは1921年に初代グッチオ・グッチがイタリア、フィレンツェで創業した商店が始まりとなっています。鞄やバッグなどの皮革製品を扱い、主として観光客に販売していました。

商売は順調に拡大していきました。伝統的なイタリアの職人技術と洗練された趣味の皮革製品は、大きな評価と支持を得るようになりました。1950年代には王族や映画スターなどのセレブの御用達になりました。

1953年に初代グッチは72歳で亡くなりました。後を継いだ二代目総帥アルド・グッチは商売の天才でした。アメリカに進出した後に、各国で出店攻勢をかけます。グッチの店舗は全世界に広まり、製品も、香水、アクセサリー、時計などに拡張しました。二代目アルドの時代に、グッチは世界規模で展開する巨大企業になりました。

 

しかし、1980年代に入ると一族の間で争いが勃発してしまいます。

経営にも問題がありました。要因は二つ。ライセンス契約の乱発でかつての高級イメージが損なわれていた点。もうひとつはお金の面で、ものすごくいい加減だった事です。

様々な葛藤と経営面での問題が絡まった結果、一族同士が裁判で争うようになりました。結果、「流血の重役会議事件」がマスコミを騒がし、総帥アルド・グッチは脱税で刑務所に放りこまれてしまいます。当然ながら、こういったスキャンダルの連続は、グッチのブランドイメージを大きく傷つけました。

 

その後、アルドの甥マウリツィオ・グッチが、アラブ系金融機関インヴェストコープと組んで一族同士の争いに勝利し三代目総帥となりました。インヴェストコープは、二代目アルドとその息子達の株を買い上げ、グッチの経営から追い出したのでした。

三代目マウリツィオはグッチの再建を図りますが、高級イメージの回復のために、ライセンス契約を一斉に停止する、という無謀な策に走ってしまいます。結果、店舗には商品が並ばなくなり、お客が来ても買う物が何も無い、という惨状になりました。当然、巨額の損失を出し、残ったのは借金の山。1993年にマウリツィオ・グッチは株をアラブ系金融機関インヴェストコープに売り、グッチの経営から去りました。

グッチの経営から去った三代目マウリツィオ・グッチは、別の事業を始めますが、1995年出勤中に何者かに拳銃で撃たれて殺害されました。犯人の手がかりはなく、警察の捜査は完全な行き詰まりをみせ、迷宮入り確定と思われました。しかし、ふとした事から手がかりを掴んだ警察は捜査を進めるうちに、衝撃の結論に辿り着きます。なんと、犯人はマウリツィオ・グッチの別居中の妻でした。妻パトリツィアがヒットマンを雇って殺害したのでした。

妻パトリツィアの日記には、夫を殺害した日にこう書いてありました。

「天国」

・・・と。

 

グッチ奇跡の復活。相談役とカウボーイの黄金コンビ

勿論、こんな話はグッチの公式サイトにはありません。

グッチのブランドの歴史の説明になると、たいてい、創業者グッチオと2代目アルドの中期まで書かれているだけで終わりです。手許に「世界ファッション・デザイナー名鑑」(リンダ・ワトソン著 河村めぐみ訳)という本がありますが、1980年代以降のグッチの闇の歴史は全部カットされています。

表向きには書かれていない歴史ほど興味深い・・・というのはさておき、私が

上に書いた事情を知らないと、今回のエントリの主人公二人がどれだけ凄い人たちなのか、よく分からないと思います。

グッチ創業者が去った後のCEOとなったグッチの相談役ドメニコ・デ・ソーレ(Domenico De Sole)とテキサスからやって来たカウボーイ、クリエイティブ・ディレクターのトム・フォード(Tom Ford)の二人組です。

 

経営基盤もボロボロだし、ブランドイメージはどん底。給料未払いに、出入りの業者に払うお金も無い状態。スキャンダルに次ぐスキャンダルで、世間からは笑い者。これが、グッチ創業者一族の去った後の状況でした。倒産してもおかしくない状態です。

デ・ソーレCEOは労働者と生産者、職人の信頼の回復に努めました。一方、グッチを保守的なクラシック路線から、ファッションを全面に打ち出した路線に変えました。これは、ご本人が賭けだったと言っている通り、かなりの勇断でした。トム・フォードをクリエイティブ・ディレクターに抜擢し、デザイン、コレクション、店舗の作りまで、大きな裁量権を与えます。

トム・フォードは、本物の天才でした。製品を通して一つの統合された世界観を呈示するという異能の持ち主でした。1995年のコレクションは大絶賛され、ファッションの世界では伝説になりました。その後は皆が、トム・フォードのデザインに夢中になります。グッチのコレクションは異様な熱気を帯び、マドンナは何を着ているかと聞かれて「グッチ、グッチ、グッチ」と答え、服もバッグも、世界中で飛ぶように売れました。デ・ソーレCEOは、トム・フォードを全面的にバックアップしました。この黄金コンビの登場から、グッチは倍々ゲームで売上高を増やしていきます。グッチの奇跡の復活劇でした。

 

夢よ、もう一度。堕ちたブランドからもう一度、ファッション界でトップランナーへ!

 

そんな野望を抱き、ひたすら突き進む二人組でしたが、懸念材料が一つありました。敵対的買収に対する防衛策が、実質的に何も無い状態だったことです。デ・ソーレCEOは有能な人なので、早くからこの問題に気づき対策に取り組みますが、防衛策はことごとく株主総会で否決されてしまいます。

 

そして、とうとうグッチの敵対的買収に動いた人物がいました。ファッション界の暗黒皇帝、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)の総帥ベルナール・アルノー (Bernard Arnault)でした。フランスで一番の大金持ちで、ブランド企業の複合体LVMHの総帥の彼は、絶好調のグッチに目を付けます。そして、自らのブランド企業コレクションに加えようと画策を始めたのでした。

 

倒産の危機を乗り切ったグッチでしたが、今度は敵対的買収という試練が待っていたのでした。

 

参考文献

(1)  Sara Gay Forden : The House of Gucci.

(2)  Bryan Burrough: When LVMH Stalked Gucci. Vanity Fair. March 10  , 2014.

Metiers d’Arts コレクション

そして、Chanel傘下の職人技能集団 Paraffection のデモンストレーションがMetiers d’Arts コレクションですYoutubeで動画をみても、どうやって服を作っているのか全く分からないし、これらの服がどれだけの値段になるのかも全く分かりません。ひたすら精巧で豪華な服を着たモデルが延々と歩いています。ChanelのMetiers d’Arts コレクションと同じ水準のコレクションを開催しているブランドは、おそらく無いと思います。

参考の動画

 

 

補足でいくつか

書き忘れたことを箇条書きにしておきます。

・  Paraffectionは職人工房の囲い込みではありません。各工房はChanelの独占契約ではなく、DiorやBalenciagaにも製品を売っています。店舗を構えている工房もあります。

・  職人工房ではコレクション、オートクチュールだけでなく既製品(ready to wear)も扱っていると書きましたが、細かい情報はなかなか手に入りませんでした。今後の課題にしようかと。

・  最近では、Chanelの腕時計の分野でもParaffectionの工房が関わっているようです。リンクを張っておきます。

http://www.lexpress.fr/tendances/montre/chanel-et-lesage-la-haute-couture-au-service-des-montres_1729958.html

 

平凡な結論:Chanelの服は高級品。値段が高いのは当たり前。

Chanelは株式を公開していません。Chanelは、ココ・シャネルの共同経営者だったWertheimer家が所有する個人商店です。発表したくない数字を発表する義務は無いし、公表したくない情報は公開しません。

そして、調べる限り、子会社のParaffectionがどれだけの利益を得ているかも分からないし、豪華絢爛なMetiers d’Artsコレクションの効果がどれだけの物なのかも分かりません。これまで私が書いてきたことは、あちこちに転がっている記事を集めて、どうにかまとめたものです。

 

まとめの結論を書いておきます。結論は至って平凡です。

Chanelの服は高級品なので、値段が高いのは当たり前です。

理由は、ここまで読んで頂いた方には納得いただけるのではないかと。

 

Chanelはライセンス契約をしません。途上国で作らせた服にブランドロゴを張って、法外な値段で売るブランドとはわけが違うのです。Chanelの服は、Made in Franceのプライドとフランスの職人文化の結晶なのです。

「おおー、掘り出し物を見つけた!」

なんてことは、Chanelのブティックでは起こりません。良い物を安く買う事は、Chanelに限ってはあきらめましょう。

 

参考文献

(1) CEO Talk. Bruno Pavlovsky , President of Fashion , Chanel. Business of Fashion. October.22 , 2012

(2) Chanel the Saviour of Savoir-Faire. Business of Fashion April.19 , 2015

絶滅寸前の伝統工芸職人の救済作戦

フランスにはファッションの世界を慎ましく支えて来た、伝統工芸職人の小規模工房があります。しかし、大量生産、流行の変化の早さ、後継者不足で、その多くが絶滅の危機に陥ってしまいました。一例をあげると、羽根細工師という羽飾りをつける職人がいます。1990年にはパリに300あった羽根細工師の工房が現在は一つしか残っていません。

 

こういった絶滅危惧種の伝統工芸職人の工房を買い取って保護しているのがParaffection(直訳すると「愛のために」)というChanelの子会社です。前述の羽根細工師の工房Lemarieを1996年に買い取っています(これが現存する貴重な一つ)。

2013年には後継者が居なくて閉鎖の危機に陥ったLognonというひだ付け職人の工房を買い取っています。ひだ付け職人の仕事の動画を見つけたので参考までに↓

 

 

2012年には、親会社の倒産で閉鎖の危機に陥ったスコットランドのカシミアニットウェア会社Barrieを救済しています。

こういった小規模の工房に資金と人材の支援を行って、衣服関連の伝統工芸の命脈を保つ努力をしているのが、ParaffectionというChanelの小会社なのです。

 

Chanel のファッション部門責任者Bruno Pavlovsky氏は、

「Paraffectionは企業による慈善活動ではない」

と言っています。企業活動としてどう利益に結びつけているのか。その鍵は、伝統工芸工房の持つ歴史の長さと品質にあります。

 

長い歴史と品質、膨大な数のアーカイブ「それらは黄金の価値がある」

Paraffectionの傘下のLesageという刺繍職人の工房が設立されたのは1868年。約150年の歴史があります。アーカイブのサンプルはなんと7万。前述のLognonというひだ付け職人の設立は1853年にさかのぼります。編み出したひだ付けのパターンは2千。

そして、各工房の取引先も歴史的な超大物です。Lesageはナポレオン3世とその皇妃、オートクチュールの創始者Charles Frederick Worth、他にはBalenciaga師匠のために刺繍を作っています。2016年にParaffectionが買い取った工房Sohie Halletteは、2011年の英国王室の結婚式のためにレースを作っています。

(こういう高品質な歴史のある工房でも閉鎖の危機に陥るわけですが。)

 

構図が見えてきたでしょうか。

Chanel のファッション部門責任者Bruno Pavlovsky氏曰く、これらの工房のもつ文化遺産は「黄金の価値がある」とのこと。確かに。超一流の伝統工芸工房が、百年近くにわたって、ひたすら作り続けて来た、高品質かつ膨大なサンプルのアーカイブ。これが服作りに反映される時の付加価値がどれだけの物か、見当もつきません。Chanelの戦略は、伝統工芸を守りつつ、この途方も無い付加価値を最大限に引き出して製品を作る、といったものです。

Chanelのコレクション、既製服、オートクチュール製品。どれも高級品と言われなくても、高級品のオーラを出す理由は、これです。

 

伝統工芸工房が集結したビルの建設

ChanelはPantin(パリの郊外にあります)に大きなビル施設を作り、傘下の工房を集めました。Lesage(刺繍職人)、Lemmarie(羽根細工職人)、Maison Michel(帽子職人)、Paloma(加工職人)、Gossens(金銀細工師)、Guillet(造花職人)です。

ファッションウィークの時には、施設全体で240人の職人が働いているそうです。Karl Lagerfeld師匠のスケッチをもとに、緻密な作業をして服を作っているのです。例を挙げると、600個の装飾を縫い付けた服(使うビーズの総数が8000個)、ひとつの作業で300時間もかかる作業の服、などだそうです。百年に渡る匠の技と膨大な時間作業量。この二つでもってChanelのコレクションの服は作られるのです。Chanelのコレクションの服が、他ブランドと違って圧倒的な高級感、圧倒的なオーラを放つのは、当たり前の話だったのです。

 

参考文献

(1) Chanel saves 176 Scottish knitwear jobs. Telegraph October.16 , 2012.

(2) Meet the makers : inside Chanel’s couture workshop in Paris. London Evening Standard April.7 , 2016

(3) Ensuring a Future for Lace. The New York Times Dec.7 , 2016

(4) Chanel the Saviour of Savoir-Faire.Business of Fashion April.19 , 2015

(5) Chanel s'installe à Pantin en catimini. Le Parisien 2013/01/14(フランス語)

(6) Dans les ateliers d'un plisseur, précieux savoir-faire pour la haute couture.20 Minutes 2014/01/19(フランス語)

(7) Chez le brodeur Montex, nouvelle perle à l'arc de Chanel. Le Point 2012/01/22 (フランス語)

(8) Chanel à Pantin, de fil en aiguille. Madame Figaro 2014/02/10(フランス語)