麻生外相の天皇靖国参拝発言に関して、新華社通信がそれに反発する記事を載せたとのニュースが報道されています。日本と外国のメディア間で翻訳作業を含む記事の引用を何度も続けると、意図的な改竄だけでなく、解釈や誤訳などによって、それがまるで伝言ゲームのように内容が変わって行く
様がよく表れています。
まずは新華社電の元ネタになった共同通信の記事。
■天皇の靖国参拝実現を 外相、環境整備必要か (共同通信 1/28 21:24)
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200601280149.html
『麻生太郎外相は二十八日午後、名古屋市で講演し、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題に関連し「英霊からしてみれば、天皇陛下のために『万歳』と言ったのであって、総理大臣万歳といった人はゼロだ。天皇陛下の参拝が一番だ」と述べ、天皇の参拝実現が望ましいとの認識を示した。
天皇の靖国参拝は一九七五年十一月以来、行われていない。麻生氏は「なぜ(参拝)できなくなったのかと言えば、公人、私人の話(問題)からだ」と指摘、A級戦犯の合祀が理由ではないとした。参拝実現の環境整備として宗教法人格の見直しなどが必要との認識を示したものとみられる。首相参拝で悪化している中韓両国との関係がさらに冷え込むのは必至だ。
麻生氏は講演で、小泉首相の参拝について「中国が(反対と)言えば言うだけ、行かざるを得なくなる。『たばこを吸うな、吸うな』と言われ、吸いたくなるのと同じ。黙っているのが一番だ」と述べ、参拝に反発している中国や韓国をけん制した。
靖国神社の法人格見直しは、中韓両国などに配慮する形で、九九年に野中広務官房長官(当時)が、宗教法人の靖国神社を特殊法人に改め、A級戦犯を分祀ぶんしする考えを示したが、具体化はしなかった。二〇〇四年には自民党の山崎拓前副総裁も神社側に分祀を打診。神社側は神道の信仰上、分祀を否定。遺族の一部も拒否している。
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麻生太郎外相講演の靖国神社参拝問題関連の要旨は次の通り。
靖国神社は東京都認可の宗教法人。国立でも何でもないから、靖国神社という一神社のやることに対して、国がああしろ、こうしろと言えない。
少なくとも日本国首相が自分の国内で、ここは行っていいけど、こっち行っちゃいかんというようなことを外国から言われて、決めるのは絶対通るところではない。
中国が言えば言うだけ、行かざるを得ないことになる。やめろ、やめろと言ったら行くんだから。たばこ吸うな吸うなと言えば吸いたくなるのと同じことだ。黙っているのが一番。
祭られている英霊の方からしてみれば、天皇陛下のために万歳と言ったのであって、総理大臣万歳と言った人はゼロだ。天皇陛下の参拝なんだと思う。それが一番。
天皇陛下の参拝がなんでできなくなったのかと言えば、公人、私人の話からだから、それをどうすれば解決できるかという話にすれば、答えはいくつか出てくる。そういった形にすべきだと思っている。』
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これを受けた中国の新華社通信の報道は以下の2つの記事です。
1番目の記事を載せた中国新聞社 (China News) は新華社同様に国営通信ですが、ウェブ上の記事にはっきりと「新華社電のニュース」と書いてあるので、新華社の記事の転載と思われます。新華社電のウェブ上には2番目の記事のみ掲載されています。
■日本の麻生太郎外相は言いたい放題 天皇の靖国神社参拝を希望 (新華社電/中国新聞社 China News 1/29 9:22)
http://www.chinanews.com.cn/news/2006/2006-01-29/8/684676.shtml
(簡体中文)
『【新華社電の1月29日のニュース】共同通信社の報道によると、日本の麻生太郎外相は28日に日本の名古屋市内の講演で、日本の小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題について「最も良いのは天皇陛下が参拝に行かれることだ」と、天皇の靖国神社参拝の実現を希望すると表明した。
小泉首相が靖国神社に五回連続で参拝したため、それが中日関係を谷間に陥らせている。靖国神社問題で、中国政府の態度・立場はとても明確であり、第二次大戦のA級戦犯が祀られている靖国神社に、日本の天皇や首相等を含む日本の指導者が参拝することに反対している。
中国外交部のスポークスマンは、日本の指導者が靖国神社を参拝することは、歴史を深く反省し和平発展の道を進むことを承諾した彼等の戦後表明と矛盾する。同時に、歴史を鏡にして未来に向かうという中日国交回復時の双方の共通認識に違反したものである。私達は日本の指導者がそれを適切に実行し、この過った方法を改めることを望んでいる、と述べた。【編集:陶光雄】』(訳:岩谷文太)
■日本の外相、何と「靖国神社の天皇参拝」を鼓吹 (新華社電 1/29 14:36)
http://news.xinhuanet.com/world/2006-01/29/content_4114934.htm
(簡体中文)
『【新華社電東京 1月29日(記者:何徳功)】 日本の麻生太郎外相は28日、名古屋での演説で日本の天皇は靖国神社に参拝するべきだと鼓吹した。日本の小泉純一郎首相の靖国神社参拝に中国が反対しても、その効果は予想の逆にしかならないと公言した。
麻生外相は天皇靖国神社参拝の理由として、戦死者の角度から見れば、当時彼等が叫んだのは「天皇万歳」であって、一人として「首相万歳」とは叫んでいない。よって、天皇が靖国神社を参拝するのが最も適切である、と外相はそこまで言うに至った。
靖国神社参拝は、日本の指導者が日本の戦争の歴史問題という厳粛な政治問題に正しく対処出来ないことを反映している。しかし日本の外相の発言は、中国が反対すればするほど、小泉首相は靖国神社参拝をせざるを得なくなり、まさしくそれは、喫煙するなと言われて、もっと喫煙をしたくなるが如くであると、詭弁である。彼の発言は、靖国神社参拝の問題で、中国の最良の対応は沈黙を守ることであると、甚だしく理不尽である。
日本の裕仁天皇は第二次大戦後に靖国神社に参拝したが、1978年のA級戦犯の合祀以降、彼は参拝活動を停止した。明仁天皇はこれまで靖国神社を参拝をしたことがない。日本の一部の右翼団体は、天皇の靖国神社参拝の再開を鼓吹し続けているが、麻生太郎外相の発言は日本の極右勢力の立場を代表するものだ。』(訳:岩谷文太)
見るからに、共同通信の記事が彼等の情報源であり、それだけで記事を書いてるのは明らかです。1番目の記事の内容は中国側の主張がメインですが、2番目の記事は問題大ありです。
新華社の2番目の記事と共同通信の記事との内容の比較は以下です。
誇張・捏造している部分(赤文字でハイライト):
・天皇はA級戦犯合祀以降参拝を停止した
・麻生外相は右翼の立場を代表するもの
・中国が靖国参拝に反対しても、その効果は予想の逆にしかならない
報じていない部分:
・天皇参拝停止は公人私人の問題
・天皇参拝停止はA級戦犯の合祀が理由でない
・靖国は宗教法人なので国がどうこうする問題ではない
・国内問題を外国から言われて決めるものではない
報じている部分(青文字でハイライト):
・英霊は「首相万歳」とは言ってない
・中国が言えば言うほど靖国に行かざるを得なくなる
・たばこを吸うなと言われれば吸いたくなる
・中国は黙ってるのが一番
共同通信は麻生外相の発言の要旨を掲載しており、新華社通信もそれを入手していたにも関わらず、「公人私人」「A級戦犯の問題ではない」「靖国は宗教法人」「国内問題」という麻生外相の発言の主旨は全くすっ飛ばして、あたかも、天皇はA級戦犯が合祀されてるから参拝出来ないのに、極右勢力を代表する麻生外相が日中関係を悪化させている、というように話を作り替えています。
要するに新華社の意図は、天皇の批判は避け、「一部の極右政治家が日本政府の要職にいる」という印象を中国国内に植え付けるという狙いがあります。これは恐らく以下の理由があるかと思われます。
・宗教法人、公人私人の問題は国内で理解されないだろうということ
・天皇参拝停止をA級戦犯のせいにしておいた方が中国国内では理解され易い
・天皇批判は日本世論の深刻な反発を招く恐れがある
・中国の立場では「日本の国内問題」と言えない
・一部の極右勢力の代表として麻生外相一人を悪者にすることで、中国国内の反発を回避する
まあ、彼等なりに考えているというのは分かりますが、肝心な部分に触れることを避けるような、中国がこういう誤魔化しの報道姿勢を続けている限りは、靖国問題を始めとした歴史問題は永遠に決着しないでしょう。
新華社通信はせっかく日本語版ウェブも持ってるのに、2番目の記事は東京で書かれているにも関わらず、こういう中国国内向けの記事は載せないようです。
■新華社通信ネットジャパン
http://www.xinhua.jp
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それを受けて、この新華社通信の記事を基に共同通信が記事を書いてます。これで共同通信と新華社通信のマッチポンプ往復文通がめでたく成立って訳だ。
■麻生外相発言を強く批判 新華社 (共同通信 1/29 23:07)
http://www.kobe-np.co.jp/kyodonews/news/01027081kd200602052300.shtml
『【北京29日共同】中国の国営通信、新華社は29日、天皇の靖国神社参拝実現が望ましいとした28日の麻生太郎外相の発言を「こともあろうに天皇参拝を吹聴」との見出しで伝え、強く批判した。
新華社電は、靖国参拝は日本の指導者が正確に歴史に直面していないことを反映した「厳粛な政治問題」だと指摘し、麻生外相は「中国が反対すればするほど首相は参拝をやめられなくなるといった詭弁(きべん)を使っている」と非難。その上で、麻生外相の談話は天皇の参拝を求める右翼勢力の立場を代表するものだと批判した。』
共同通信は、自社の記事が明らかに意図的な主旨のすり替えをされてるにも関わらず、新華社の主張部分だけをまとめ、新華社の捏造部分には言及しないという、これもまた無難を装った意図的なマッチポンプです。
それに対して以下の中国情報局の記事は問題大ありです。
■新華社等:麻生発言に反発、日中関係には一定の配慮か (中国情報局 1/30 12:30)
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2006&d=0130&f=politics_0130_001.shtml
『麻生太郎外務大臣が28日、「天皇の靖国神社参拝が望ましい」と発言したことに対して中国メディアが強く反発している。国営の新華社、中国新聞社ともに29日付で、批判記事を発表した。
新華社は、麻生外相の「中国が反対すればするほど、小泉首相は参拝せざるを得なくなる」という論法を、タバコを吸ってはいけないと言われた人が、「なおさら吸いたくなる」というようなものだと、皮肉った。ただし、「このような、まったく道理が通らない発言に対して、中国は黙殺することがベストだ」と、「麻生外相の発言により、日中関係をこれ以上こじらせるべきではない」と考えているとも解釈できる論評をつけ加えた。
さらに新華社は、「1978年にA級戦犯が靖国神社に祀られるようになってから、裕仁天皇(昭和天皇)は靖国神社参拝を停止した。明仁天皇(今上天皇)は、靖国神社を参拝したことがない」と解説している。そして、「麻生外相の発言は、日本の極右勢力の立場を代表するものだ」と主張した。
一方、中国新聞社は「靖国神社問題に対する、中国政府の態度は明確だ」として、「日本の指導者がA級戦犯が祀られている靖国神社に参拝することに反対している」と、従来からの主張を述べ、その上で「日本の指導者には天皇も首相も含まれる」とした。(編集担当:如月隼人・恩田有紀)』
あれ? 「タバコ」発言と「中国は沈黙するのが一番だ」は麻生外相が言ったことだけどなあ。いつの間にか新華社のセリフになってる・・・ 確かに新華社の記事の原文では、どこからどこまで麻生外相の発言なのか分かりにくい書き方ではありますが、間違えちゃあイカンでしょう。日本の報道を確認しないで中国の記事だけ見て書けばこういうことになる。「伝言ゲーム報道」「二重翻訳」の典型的な例です。
中国情報局は「A級戦犯」の合祀で昭和天皇が参拝停止をしたと、新華社の捏造をそのまま伝えています。共同通信でもさすがにこの部分は載せていません。
また、中国新聞社 (China News) 掲載でも、元の記事には「新華社電のニュース」とはっきり書いてあるのだから、事実上は新華社一社です。それを「国営通信が2社も麻生発言に反発してる」と、中国情報局がわざわざ作為的に煽ってるとの意図が見えます。中国情報局はもともと中国人が始めた会社だから視点が中国側になってるのだろうね。
■株式会社サーチナ(中国情報局)会社概要
http://global-searchina.com/jp/cp.html
『株式会社サーチナは、1人の中国人留学生が日中間のより深い相互理解を実現したいという初心のもとに設立した企業です。現在は、日本における最大な専門ポータル「中国情報局」を始め、中国上場企業データバンク「中国企業網」などを運営、日中間の最強な情報ゲートウェイとして注目を集めています。…』
関連記事:
■新華社通信、麻生外相発言は「極右を代表」と批判 (朝日新聞 1/30 20:33)
http://www.asahi.com/international/update/0130/010.html