旅行初日にあんなに美味い料理を食べてしまったら、この後の旅なんて消化試合みたいなもんだな。
そんな事を思いながら翌朝早々に起きて次の目的地に向かった。

阿蘇山に登れなくなったので、この旅のスケジュールはこんな感じになった。
1日目 きたうら善良で割烹料理を食べる
2日目 大崩山を日帰り登山
3日目 くじゅう17サミッツ前半
4日目 くじゅう17サミッツ後半

結局登るんかい。
そう思った人もいるかもしれないが、山に登ることと食べること以外にする事が何も思いつかなかった。

で…
この日登る大崩山という山は一言で言うと"難攻不落な九州最後の秘境"なんだとか。

5分に一回のペースで鹿とぶつかりそうになるスリリングな一本道をひたすら真っ直ぐ進むと…
あった。ここだ。

04:20 START 大崩山登山口
シンと静まりかえった真っ黒い闇の中に吸い込まれるように入っていった。

下調べでは大崩山荘までは大したことないはず。

むむむ…
梯子が出てきたと思ったら、その向こうには暗闇で光る2つ目がこっちを見てる。
次の瞬間その2つの光がサササッと向こうに消えていった。
めっさ怖いじゃないか。

この暗闇で音を立てて流れる川って…(>人<;)
これを渉るのは嫌な予感がする。

諦めて引き返すと…
なんと大崩山荘に到着って!?
知らぬ間に通り過ぎてたみたいだ。

恐る恐る扉を開けたものの誰もいねぇ。
朝飯でもたべるか。
マックスバリュで宮崎県産の鶏炭火焼とヤゲン軟骨を買ってみたんだけど…

う〜ん\(//∇//)\
真空パックじゃなくて、生肉を買えばよかった。
そんなに美味しくないのに凄いボリュームw
めっちゃ広い空間で一人飯を喰う。

残念ながらマイホームの3LDKよりこの小屋の方が遥かに広い。
こんな広いスペースを一人で貸切って…

将来、もし住む場所に困るような時はここに住もうかな。

食べ終わる頃には外は日差しが差し込み明るくなってた。

05:30 大崩山荘を出発!!
行くぞ〜!!

再び河川に出る…

あれか!!!
凄い迫力だ。
今にも斉天大聖孫悟空が生まれそうな感じで、岩肌剥き出しで切り立ってる。

いきなり話は全く変わってしまうが…
最近、信心深いめこさんの影響を受けて般若心経を覚えることになった。

折角なので般若心経の事を調べてみると…
えっ…三蔵法師!?
あの孫悟空、猪八戒、沙悟浄をお供にシルクロードを旅したあの人の名がでてきた。
三蔵法師はA.D.600年代に片道4〜5年の歳月を費やして長安からインドの天竺へ旅をする。

そして…
見事に天竺に到着したんだ。
そこには600巻以上の大般若経があり、びっしりとサンスクリット語で記されてた。
三蔵法師はこれを持ち帰って生涯を掛けて漢字に翻訳することにしたんだ。

で…三蔵法師はその翻訳作業の途中にある事に気づいてしまったのである。
『こんな長いの一体誰が読むねん?』
書物たる物沢山の人に読んで貰ってナンボである。
本なんて普通は1巻完結で、司馬遼太郎の"竜馬が行く"でもせいぜい8巻だ。
600百巻もあったらベストセラーにならないだろう。というか誰が読むねん。

袖ダキに到着!!
突き出た岩から首を出して覗くと…
引っ掛かり用もない絶壁。
落ちたらイチコロだな。

三蔵法師は思った。
『これは不味いぞ…私はどうすればいいんだ?』
悟空、八戒、悟浄…はたまた太上老君に相談しようか…いやこれは私の仕事だ。私がやらねば。
そして三蔵法師はある決心をしたのである。
『ハショってやろう…』

あのとてつもなく有り難い600巻の大般若経を僧侶がハショるのである。
正気の沙汰ではない。
それにどうやってハショるよ。
並の人間がめちゃくちゃ頑張ってハショったとして600巻が300巻になるくらいで、300巻もあれば結局、誰も読んでくれない。

やはり三蔵法師は凄いのである。
めちゃくちゃ凄いのである。
ハショりにハショった。
その結果随分と短くなった。
600巻がたったの266文字になってしまったのである。古今東西これほどのハショり人がいただろうか…

三蔵法師は正しかった。
600巻なら世の中に浸透しなかったはず。
なのに266文字なのでめっちゃ浸透した。
それが国境を超えて日本に届き…
時代を超えて今に届き…
信心深いめこさんに届き…
信心深くもないボクにまで届いたのである。

まぁ…
この秘境とは全く関係ない話なんだけど…

仙人がポツンと座ってそうな岩の上に、ボクは一人でポツンと座りながら、こんなことを考えていた。

『エゲツない場所に来てしまった。ちゃんと生きて帰れるだろうか!?』

ここまでの道程が半端なく険しかったのである。
斜めに登る感じではなく、縦に登るイメージなので、梯子とロープの難所がやたらと連続する。
こんなに絶景なのに見渡す限りボク以外の登山者は誰もいない。

なのに…
どこからともなく女の声がする…!?
なんなんだアレは…?
遠くから聞こえるような気もするし、近くから聞こえるような気もする…

『お父さん…』
そう言ってるように聞こえた。