職場の後輩が伸び悩んでいる。
初めて頭を張った現場が火を吹いて(実際の火事ではなく建設業の現場で使われる検査や納期に間に合わない状況です)で赤字を出してしまった。
僕はその後輩の所属する会社にお世話になってる応援の1人親方なのだ。
つまり、後輩は会社員なので赤字を出しても評価は下がるが給料が減るわけじゃなく、むしろ残業代で稼いでいるので赤字という数字そのものに対してそこまで気にする問題ではない。
それこそが会社員の最大のメリットなのである。
給料を貰いながらノーリスクで経験値まで稼げるのだ。
赤字になった理由としては応援の職人に作業を丸投げして施工の確認を怠った結果なので本人が反省するしかない。
若手の職人がミスをする原因のほとんどは先輩のことをナメるからだと思う。
昔とは時代が大きく変わったので今はとっても優しい世界なので、その結果、先輩(仕事)に対してナメるスケールも大きくなっている。
メモを取る、図面にチェックを入れる、この基本中の基本をサボるのだ。
例え自分が死んだとしてもメモ帳と図面さえ残れば現場が納められるように記す遺書のような、己の仕事に命を捧げるような狂った時代を生き抜いた世代にしか伝わらない基本の型なのである。
社畜とかブラックとかいう表現は軽いユーモアであって、あの時代の圧倒的な狂気は僕ら世代にしかわからない。
その後輩が赤字の現場が終わり久しぶりに同じ現場で合流した。
そして赤字の現場で丸投げしていた作業を彼が任されることになったのだ。
リベンジというか、今まで逃げてきたツケが回ってきたことになる。
期日までに終わらせるようにと社長から図面を渡されたが、作業指示をする為の図面からの拾い出しが終わらないとのこと。
急に任されても拾い出しをする時間が無いんですよ!と困っていた。
休憩時間にも拾い出しをやっていたが、終わらないと。
彼はその図面を渡される前までは休憩時間にはスマホで動画を観たりゲームをやっていたので、単純に会社員なのに休憩時間という権利を失うことが面白くないのだろう。
というか、休憩時間にワイヤレスイヤホンをしてスマホに夢中になってて社長の父親から仕事の話を振られても完全に無視するような有り様だったのだ。
そのくせ独立したいとか給料が安いとか文句だけは一丁前に言うからね。
拾い出しに時間が掛かるのは経験値の差もあると思う。
じゃあ、どうするの?と。
時間を作ればいいんじゃないの?と。
拾い出しが終わらないから残業してもいいですか?と社長に言ったの?と。
拾い出しが終わらないせいで作業が遅れて後で全員が残業するのと、先に1人で残業して拾い出しをするのはどっちが正解なの?と。
彼の言い分としては社長からは残業するなと言われてるから……と。
ん?
で、社長に言ったの?と。
社長と喧嘩しちゃダメという法律はないと思う。
言ってないです。
残業するなと言われてるけど、それでも終わらないから残業させて下さいと交渉して、それでも社長が残業を認めないならその責任は社長にも乗っかるわけよ。
まず、その一手を打つわけ。
そんで、図面を家に持ち帰る(情報漏洩の観点から現在のモラルとしてそれは現実的ではない)図面をスマホで撮影する、そうやって家でやる時間を作る。
残業代が出ないのに就業時間外の労働は確かに間違ってるかもしれない。
ただ、限られた業界、技術職や専門職では自分の評価つまり自分自身が看板なので、やることをやった上で文句を言うのが筋なのだ。
彼に響いたのかは正直わからないが、僕は1人親方の先輩として助言をした。
全く同じ条件があったとする。
同じ現場で同じタイミングで同じ図面を渡されて拾い出しをする時間がないと。
1人の職人は現場に1時間くらい早く来て拾い出しを終わらせたとする、もう1人の職人は文句や愚痴ばっかりで拾い出しが終わらなくて現場も赤字になったとする、評価されるのはどっちの職人だと思う?と。
早出をするのはサービスだから身銭を切ることになるけど、職人としての評価は貰えるわけだよ。
そんで終わってから社長に文句も言えるようになる。
早出をして頑張っていることは周りの職人も理解するし、その姿勢に全員がサポートしてくれるようになる。
狂ってるやつしか残ってない世界の生き残り方は真面目に狂うしか覚醒する術はない。
一昔前の建設現場では納期まで3日しかないとは言わない。
1日は24時間なので1日の労働時間が8時間だとすると、残り3日は残り9日あるという狂った計算になっていた。
老害かもしれないけど先輩をナメたらいかんのよ。
ちなみにその後輩はちゃんと結婚しているので、独身である僕はプライベートも狂っている。