兄は寮に入るために家を出て行った。


兄が居なくても、兄の部屋は物で溢れ

かえっていた。


紙くずやティッシュは一ヶ所に山を作って

まとめられていて、ビニール袋は

丸めてきれいに整列していた。


しばらくそれをじっと見ていた。



幼い頃から、私が望んでいたことが

叶った。


兄がいなければ…

と何度も思っていた。



でも、何も変わらなかった。




私は時々、高校を休む日があった。


熱が出たりしたわけではなかった。



ただ動けなかった。



毎日毎日気持ちを張り詰めて過ごして

いるから、疲れ果てた。


こうして休まなければ、また頑張れなく

なると自分が1番よくわかった。



そして、そんな自分を

心底情けなく感じた。




私はずっとこんなんで生きていけるのか…

不登校から抜け出せていないのではないか…



と不安に押しつぶされそうだった。

それを話せる人は誰もいなかった。






母は、昔みたいにお茶会を開かなくなった。


お茶会に来ていた1人がマルチ商法まがいな

ことを始め、母は嫌になったようだった。



その代わりにゴルフ始めたようだった。


父や祖父やゴルフ仲間と休日はでかける

ようになった。


交友関係が広がっているようだった。


母はどこまで行っても私とは違って

華やかな人だと思った。




近所に住む父方の祖父母の痴呆も進み、

母が生活の世話をするようになった。


母は、相変わらず忙しそうだった。





ある日、母と兄が電話で話していた。


電話ごしの兄の声は

すごく明るかった。



今までに聞いたことがないくらいに

ハキハキ生き生きと話していた。



兄は、


お母さん!

俺に友達ができたよ!

今日は一緒にコンビニに

行ったよ!



と言った。



母は本当に嬉しそうだった。

それを見て、父も喜んでいるように見えた。




なんだか家の中が明るくなった。