「ダメだ、ダメ！この作品に出るのは
許さない！」
珍しく蓮が声を荒げた。
「どうして？久しぶりに共演できるんです
よ？それも恋人同士////」
キョーコは上目づかいで蓮を見上げた。
蓮はキョーコの可愛いしぐさに思わず
抱き締めた。
「可愛い…////可愛すぎるよ。キョーコが
この役を演じると思うと嬉しさと同時に
恐怖を感じるよ。」
「恐怖？」
「キョーコが上手く演じれば演じるほど
馬の骨が量産されるんだ。俺は反対だ
な。」
「でも、でも…蓮さんと共演したいで
す！」
キョーコは大きな瞳を見開いて
蓮にお願いした。
「キョーコ…」
「お願い…ね？」
二人は交際してまだ２週間。蓮は
愛するキョーコの頼みを聞くしか
なかった。
「しょうがないなあ。」
蓮は、両腕を首に絡ませたキョーコに
深く長いキスをした。
「よろしくお願いします。」
キョーコが挨拶すると共演者の
飯塚と大原が微笑んだ。
二人とは『DARK MOON』で共演。
前回と同様、飯塚が母親、大原が姉役
だ。
「京子ちゃんが敦賀さんとお付き合
いだなんて驚きよお。」
大原はキョーコをからかった。
蓮があちこちで牽制しまくり、二人の
交際は公然の秘密とされている。
当時は尚と噂されていて蓮と
キョーコは兄妹のような印象だった。
「本当に大人っぽくなったわね。演技力
は折り紙つきだったけど。敦賀さんと
ねえ。大したものよ。」
飯塚も頷く。
このドラマのタイトルは『魅惑の義
妹』
親同士の再婚で兄妹になった隼人(蓮)
と岬(キョーコ)の愛の物語。
美しい姉の舞(大原)の影に隠れて
おどおどしている岬だが、満月の夜
になると別人のように魅惑的な女性
『可憐』に変身する。
平素の岬を愛している隼人だが、
魅惑的な可憐に誘惑されたふりを
してベッドに誘い込む。
そして朝が来る。
「あのっ、隼人さん。これは一体？」
ベッドで一糸纏わぬ姿の自分自身に
衝撃を受ける岬。
「お前が誘ったんだよ。抱いて欲しい
と。忘れたふり？悪い子だね。」
「違っ！隼人さん。離して！」
隼人は可憐を抱かなかった。
岬に戻るまで時間をかけて待って
いた。
「離さないよ、岬。愛してるよ。」
岬に迫る隼人役の蓮がセクシーで
女優陣はクラッとする。
「やあっ、隼人さん、あんん…」
キョーコの甘い声と白い肢体に
男優陣も顔を赤らめる。
「カーット！！」
濃厚なラブシーンが終わり、
キョーコは蓮に近づく。
「蓮さん…」
蓮は不機嫌だ。
「もっと、手を抜いて演じてよか
ったんだ。馬の骨量産じゃない
か！！」
蓮に叱られ、しゅんとするキョー
コ。
「ごめんなさい。あの…」
キョーコは蓮の手を取り、上目づかい
で蓮を見た。
「濡れてきちゃいました。楽屋で…
シテくださいますか？」
蓮はがっくりと頭を下げた。
「まるで可憐だよ。キョーコ。」
蓮はキョーコにガウンを羽織らせると
抱き上げた。
「ちょっと休憩してきます。」
End