「ウメさん、ここです。だるまやさん。」
キヨがみつけた。
ウメとキヨは研修で東京に来ていた。
浅草寺におまいりにいった後、話題の
だるまやにいってみようということに
なった。
キョーコが下宿しているが、多分仕事
で会えないことは織り込み済。
二人が興味を示しているのは、味に
うるさい尚やキョーコが絶賛する大将の
料理だ。
(…うちの板長クラスかしら？)
ウメは超期待している。
のれんをくぐった。
「こんばんは。」
「へい、いらっしゃい。」
威勢のいい声が返ってきた。
二人はカウンターに座った。
「いらっしゃいませ、おしぼりどうぞ」
ぼっちゃりした愛想のいい女性から
おしぼりをもらう二人。
「ウメさん、あれが女将さんですか
ね？」
「多分、そうやろ。」
二人は小声で話した。
「何にしますか？」
女将に聞かれてウメは即座に
「お任せで。」
と答え、キヨも頷く。
(…お通しからやね、きっと。チエック
させて貰うよ)
ウメは鼻息を荒くしていたが、一品目
を見てウメとキヨは目を丸くする。
((いきなり、焼き魚？！))
大将はふふんとしている。
ウメは首を傾げたが、食べ始める。
(…美味しい！うまく焼いてるわ)
ほくほくと食べているウメと
キヨに大将が声をかけた 。
「あんたら、筍ご飯食べるかい？」
「「はいっ！」」
聞いていた女将はくすっと笑った。
「お二人とも箸の上げ下ろしも魚の食
べ方も完璧で大将ご機嫌なんですよ。
良家のお嬢様方なんでしょうね。関
西から見えたんですか？」
女将の言葉に二人はギクッとした、
「え…ええ。」
「こんばんは。」
その時、客が入ってきた。
(…セーフや。)
「隣いいですか？」
「いいですよ。」
ウメが微笑みながら隣を見て
驚愕する。
「つ、敦賀さん？！」
「こんばんは。」
蓮は似非紳士スマイルを浮かべた。
「ビックリしたわ。敦賀さんやわ。
噂には聞いてたけど、ホンマにだるま
やにいてはった。」
キヨが興奮しながら言うと蓮は
間髪入れずに聞いた。
「誰から？」
「古…うぐぐっ…」
ウメは話そうとするキヨの口を
手でふさいだ。
「ほほほ。皆さん、浮き世のことは
忘れて美味しいものたべましょ？」
ウメは上手くその場を納めて筍ご飯
を食べ始める。
蓮にも焼き魚が出された。
(…敦賀さん、お魚たべてはるの見たこ
とないかも。)
ウメは蓮をガン見した。キヨは先程か
ら蓮をうっとりとみつめている。
(…箸の持ち方はいいね。お魚も上手く処
理してるわ。)
ウメはよしよしと頷いた。
しかし…。
「駄目だ、あんたの食べ方は。美味しそ
うに食べてない。隣の人を見てみろ。本
当にうまそうに食べてる。」
大将がいきなり蓮にダメ出しして
ウメはぎょっとする。
(…大将どうしたのっ！敦賀さんに敵意
すら感じる発言は。)
蓮は褒められたウメを恨めしそうに
見ている。
「いいな、褒められて。」
蓮の言葉がウメの心に突き刺さった。
「つ、敦賀さんもお魚の食べ方上手です
よ。」
しばらく蓮は無言だったが、大将が
奥に入るとぽつんといった。
「練習したので…。」
「え？」
「最上さんの親代わりの大将に気に入ら
れようと練習したんですが、美味しそう
までは考えなかったな。ウメさん、今度
教えてくれませんか？美味しそうに食べ
るコツを。」
「はあ…」
聞きながらウメは判ってしまった。
(…敦賀さん、あんたさんがどんな食べ方
をしても大将は気に入らないと思うわ。)
End