女将はウメにおもむろに封筒を渡した。
「女将さん？」
「取引先の銀行の頭取さんからのご紹介
や。どうしてもあんたさんと結婚したいと
いうお人がいるそうや。」
「へえ、どんなお人やろ。」
ウメは思いがけないことに驚く。
「地元の高校、大学を出て銀行勤務。頭取
さんは期待のエースといってましたな。背
は高くイケメン。年下だけどしっかりして
るらしいよ。」
「非の打ち所のないお人や。私でいいのか
な。」
ウメは浮き浮きしながら封筒の中のお見
合い写真を開く。
その瞬間。
「ひいいいいっ、嫌や！絶対に嫌や！」
ウメは写真を放り投げ、後ずさった。
あれは一年前の12月30日。
ウメは担当の客室へと向かった。
その部屋の客が背が高いのに気がつき
浴衣を交換しようと思ったからだ。
「失礼します。浴衣を替えさせていただ
き……ひいっ、お客様！！」
襖をあけたウメは仰天した。
目の前で客が首に○を掛け、今にも
…という状態だった。
「お客様！何をなさるんですか。落ち着
いてください！」
「止めないでよ！仲居頭さん。融資を焦
げ付かせて俺はもう駄目だ！」
「落ち着いてください。私がお話聞きま
すからそれからでもいいでしょ？」
「まあ、いいけど…。」
男性はどうでもいいように頷いた。
ウメは暫く男性の話を聞いた。
かなり、大変そうだが、しっかり
止めなければ旅館の信用に関わる。
「あんたさん、一人でいってしまう
の？」
「見ての通りだけど？」
「駄目や。独りぼっちは。あちらでも
寂しいよ。」
「……………。」
「彼女さんつくって一緒にいくのは
どうやろ？」
「楽しいかも知れませんね。探しま
す。」
男性は少しホッとしたように笑った。
(…セーフや。よかったああ。)
そのときは安堵したウメだったが。
「おかしなお人だね。嫌な理由教えて欲
しいんやけど？」
「嫌なものは嫌なんやっ！死んだほう
がましや。というか死ぬし。嫌や！」
走り去るウメがまったく理解出来
ない女将だった。
(…早めの更○期障害やろか)
End
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