蓮とキョーコは空の上。

  平日ということもあり、キョーコ達の

クラスには他に乗客がいなかった。

  (…二人だけなら離れて座ってもいいくらい

だわ。)

   シートは広々していて、離れているが、

 キョーコは落ち着かない。

   そもそも、航空機で誰かの隣というのは

初めてである。

    トラジックマーカーの時は行きも帰りも

ひとりだった。

   京都からショータローと上京した時は

新幹線だった。

   あのときも今と同じく期待で胸を膨らませ

ていた。

    ショータローと一緒に生活できる、彼を独

占できる、彼が私を選んでくれた。

   彼が他の女の子と付き合っていたのは薄々

知っていたが、単なる浮気だと思って目をつ

ぶっていた。しかし、そのときから自分のよ

うな平凡な女の子がショータローに釣り合っ

ているのだろうかと日増しにひどくなる

ショータローファンのいじめに耐えながら

考えていた。

   そしてあの日

 『あんな化粧ひとつしない色気ねー女。』

 ※スキビ1巻をご参照ください。

   発言を聞いた。同時にショータローの言う

『その辺の地味でつまらねー女』が自分だと

知った。

  (…忘れていたのに不意に思い出してしまっ

た!!)



   「最上さん、怖い顔してどうしたの?気分

悪くなった?」

    蓮が心配そうにキョーコを覗き込んだ。

   「大丈夫ですっ!!エコノミーしか乗った

ことがないので緊張してっ。」

     「そう、少し眠ったら気分が軽くなる

 よ。」

       「は…い。」

    (…敦賀さんの隣で眠れる訳ないじゃないで

 すかっ。)

    蓮は茶髪にウェーブのかかったウイッグを

付け、眼鏡をかけていた。

   耳にはピアスをつけて、ラフな服装で大学

 生風だ。

   確かに敦賀蓮のイメージと違う。

    しかし、モデルとして活躍している蓮を

見ている人ならもしやと思うかもしれない。

    というか、190㎝でこのスタイル、この容

姿なら敦賀蓮と判らなくても注目される。

   「シャンパンはいかがですか?」

   「チョコレートはいかがですか?」

   客室乗務員が食事以外にも頻繁にやってく

る。

    「お酒は結構。」

    「甘いものは彼女に。」

     ネイティブな英語で話す蓮にうっとりす

る客室乗務員。
 
      蓮はアルコールをまるで摂らなかった。

      未成年の自分への配慮かなとキョーコは

思った。

      蓮は甘いものは食べない。
   
      もちろんチョコレートも。バレンタイン

のチョコは福祉施設に配っていると聞いたこ

とがある。総量はトラック2台分だそうな。

     (…ゼリーなら食べてもらえるから)

    本当は手作りチョコを渡して食べてもらい

たい。

   (…好きです。敦賀さん。)

    キョーコは蓮の美しい横顔に呟いた。



     どうして敦賀さんは私をグアムに連れて

きたんですか?

     確かに演技中に今度デートしようと言っ

てくださった。

    でも、あれはセツに対してで最上キョーコ

にじゃない!!

    「君との夜が楽しみだよ。」

    どういう意味ですか?そんなこと言われた

ら私、勘違いしますよっ!

    この間、お見せできなかったワンピースや

ビキニの水着、セツのエロかわインナーも

持って参りました。

   もしも、もしものために!!(赤面)

モー子さんの行きつけのエステも紹介して

いただきました。

モー子さんにしつこく理由を聞かれましたが

CMで水着を着るのでとごまかしました。

椹主任に「これを知ってるの、俺と社長と

俳優セクションの松島くんと社くんだけだか

ら。とにかく頑張って。」と赤面しながら言

われました。

  何をどう頑張ればいいんですかぁぁ?